《 世界のワクワク住宅 》Vol. 007

土の中のベッドルーム 〜テキサス州サルファ・スプリングス(アメリカ)〜

投稿日:2018年6月21日 更新日:

海の中のベッドルームを体験したなら、今度は陸に上がって土の中の部屋で眠ってみてはいかがだろうか。地下室を寝室にするということ? いやいや、それでは物足りないし、ワクワクしない。寝室がそのまますっぽり地下に埋まっている…そんなイメージで部屋を探してみると、あった!シリンダー型のカプセルを地下に埋めて生活空間にする地下のシェルターがあったのだ。防空壕、あるいは核シェルターと言ったほうがピンとくるだろうか?

この円筒形の核シェルターをつくるのはアメリカ・テキサス州ダラス郊外に拠点を置くアトラス・サバイバル・シェルターズ。同社は竜巻などの自然災害や戦争の爆撃から身を守る避難施設の製造・販売を専門とする。家庭用から軍隊仕様のものまで多種多様なシェルターを取り揃え、アメリカだけでなく世界30か国以上に出荷しているという。

2017年、北朝鮮のミサイル発射が続いた。そこにトランプ新大統領政権の外交政策が予測不能だという事情も重なり、国際的な緊張感が高まった結果、アメリカで、そして日本でも核攻撃に備えたシェルターが注目を集めたらしい。アトラス社代表のロン・ハバードも日本からの問い合わせが急激に増えたと指摘する。たしかにシェルターの第一の役割は危機に対する予防的措置である…が、ここでは危機の有無とは無関係に(!)睡眠をとったり食事をしたり、生活の場所としてのシェルターをワクワク事例として取り上げてみたい。

まずは地下に埋めるシェルターがどんなものか見てみよう。形状は、四角いもの(直方体・立方体)とまるいもの(円筒・半円筒)に分かれ、サイズはそれぞれ大小さまざまだ。円筒形のものが強度が大きいという。

一般的で人気の地下シェルターはラウンド・カルヴァートと呼ばれるシリンダー型のタイプだ。直径約3m、素材は鋼鉄で、強力なさび止め効果のある特殊な塗料が塗布されている。最小で長さ約7m、20mを超える大型のシェルターが複数連結されているものまで、多くの種類が揃っている。内部の壁面や天井は金属製の円筒がそのままむき出しだが、床はフローリング、水平な床面の下は収納スペースになっている。

そう、シェルターなのだから、食糧や水の備蓄が重大な問題なのである。アトラス社のシェルターは最低でも30日間の備蓄が可能だと言う。6か月間の滞在が可能な大型シェルターもある。目に見える部分の収納棚や引き出しも充分確保され、TVやオーディオをカウチで楽しむ居間のようなスペース、かなり広いキッチンもある。寝室には二段ベッドかダブルベッドを置くレイアウトだ。

放射性物質を遮断するシステムはどうなっているのだろうか?アトラス社代表のロン・ハバードは言う。「私たちは空気清浄システムに一切タッチしません」えっ! そうなの? 「はい。空気ろ過技術の先進国、スイスとイスラエルの専門業者に委託しています。空気ろ過については素人のシェルター業者が市販の空気清浄器をポンと設置して核シェルターとして販売することもあるようですが、私たちはそういう無茶をしませんよ」。ところでご存じだろうか?イスラエルには国民の3分の2以上、スイスには国民全員を収容できるだけの核シェルターが用意されているそうだ。

シェルター内の動力は? 「太陽エネルギー、蓄電池のほか、地下用ディーゼル発動機や地上に置かれたプロパンを使うこともあります」。アトラス社の自慢は停電しても手動で発電する装置があることだ。換気、空気ろ過装置にも同様のバックアップがある。

どのくらい地下深くシェルターを埋めるのだろう?地上気温の影響を避けるためには、最低でも6フィート(約1.8m)が望ましいという。放射性物質、爆撃の影響を受けないためには36インチ(約90cm)〜6フィート(約1.8m)の深さが必要とされる。アトラス社のシェルターは多くの場合10フィート(約3m)程度の深さに埋められるそうだ。

快適さはどうだろう?土の中は温度が一定で調整しやすいというが、基本的に湿度は高めで結露対策も必要だとも聞く。ロンに質問してみる。「除湿器は必要ですよ。設置場所や季節にもよりますが、汗ばむことも多いので、除湿器は必ず設置します」。そのほか、シェルター設営にあたって注意すべきことは? 「排水システムを確保することですね。そのほかは、むしろ快適なことが多いんですよ」。遮音性・吸音性にすぐれ、震動や音が外部に響く心配は無用だから、運動場やジムして心置きなくワークアウトができる。また、室温管理が容易で、湿度も除湿器で制御できるので、ワインや美術品の収納庫に使える。平時にはワインセラーとして使える地下シェルターもある。

気になる予算は? いちばん小さい家庭用ラウンド・カルヴァートで5万ドル弱。100名以上収容できる軍仕様の大型シェルターモデルは140万ドル以上。このほかに、輸送費・設置費用が必要となる。アトラス社は世界30か国以上に出荷しており、日本への配送ももちろん可能だ。

はしごで地下に降り、L字型の通路から洗浄室に入って、高気密性の扉を開けて…すべて汚染した空気を遮断するための装置だが、このややこしい入室過程にワクワクする人も少なくないのではないか。

朝鮮半島に限らず、国際情勢の変化は予断を許さない。その分析や議論はさておき、プライベート・ジム、ワインセラー、防音の音楽室等々、趣味と実益を兼ねた空間としてシェルターを新設してみてはいかがだろうか。もちろん有事の際には、避難所として使えるという特典までついてくる。

写真:All images: Atlas Survival Shelters, Inc.
出典:Atlas Survival Shelters, Inc.
文責/text:林 はる芽/Harume Hayashi

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林 はる芽

フリーランスの翻訳家・エディター 日本語・フランス語・英語、時々スペイン語・ドイツ語を翻訳。 最近のおもな訳書にフレデリック・マルテルの3著『超大国アメリカの文化力』(共監訳)(岩波書店2009)『メインストリーム』(同2012)『現地レポート 世界LGBT事情』(同2016)、Kenjiro Tamogami, et.al. Fragments & Whol (Editions L’Improviste 2013) [田母神顯二郎他『記憶と実存』(明治大学 2009)]など。

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