《 世界のワクワク住宅 》Vol.008

土の中のホビットハウス Part I  映画『ロード・オブ・ザ・リング』に登場したホビット族の家 〜ワイカト地方マタマタ(ニュージーランド)〜

投稿日:2018年7月19日 更新日:

今回は「土の中のベッドルーム」続編として、ホビットハウスをご紹介する。ホビット? そう、ホビットとはJ・R・R・トールキン原作の『指輪物語』や『ホビットの冒険』に登場する空想上の種族のこと。この一大ファンタジーをピーター・ジャクソン監督が映画化した『ロード・オブ・ザ・リング』や『ホビット』シリーズに出てくる「こびと」たちと言ったほうがわかりやすいだろうか。

ホビットはトンネルを掘る要領で丘の中腹に水平に穴をあけ、それを住居にする。まさに傾斜地を利用した横穴で、彼らの家が「ホビット・ホール(穴)」と呼ばれる所以だ。こんなホビットハウスを見学できる場所がニュージーランド・ワイカト地方にある。人口約1万3000人のマタマタ近郊に位置する映画ロケ地がホビトン・ムービーセットとして公開されている。

1998年、飛行機で上空から『ロード・オブ・ザ・リング』のロケハンをしていたピーター・ジャクソン一行は撮影に最適の場所を見つける。緑豊かな丘陵が連なる広大なアレクサンダー農場はトールキンが描写するホビトンそのものだった。交渉の末、撮影のために500㌶を超す農場のうち5㌶を借り受けることにする。

本格的にホビット村の建設が始まるのは翌1999年。付近には電線も通路も一切なく(だからこそホビット村に相応しい)、道路を切り開き、電気や水を確保する工事が必須だった。ホビットハウスの穴を次々と掘り、『ロード・オブ・ザ・リング』に登場する象徴的な建造物…風車、グリーンドラゴン(ホビットたちがよく集まるパブ)、バッグエンド(袋小路屋敷。主人公ビルボとフロドの家)も作っていく。

現在、セットにあるホビットハウスの数は44。どの家の入口も特徴的なまるい扉で、前庭にはあふれるほど草木が生い茂り、花々が咲き誇る。ただし…家の中はむき出しの土のままで、住居として作られていない。中に入ることもできない。えっ! 中は土だけ? しかも入れない? 実は、ホビットハウス内の場面はすべてウェリントンにあるスタジオで撮影されたのだ。言い訳めくが、ホビットの身長は60〜120cm。彼らのサイズに合わせた家ならば、内部がきれいに仕上がっていても小さ過ぎて入れないだろう。

ホビットハウス内の雰囲気はグリーンドラゴンで体験できる。映画でもお馴染みのこのパブは2012年に建て直された。時代を感じさせる内装、暖かみのある木製家具等々、ホビトンらしいこの店では、特製アップルサイダーや地ビールのほか、パイやマフィンなどの軽食も注文できる。

ホビトン・セットは撮影後すぐに解体する予定だったが、ファンの要望に応えてセットの一部を残し、2002年末からツアー客を受け入れ始めた。その後、2011年の『ホビット』シリーズ撮影時には本物の建築資材を使って村全体を作り直す。ベニヤ板のセットの時代からツアーを企画してきたのは農場当主のラッセル・アレクサンダー。現在、羊や牛の世話は弟と父親に任せ、ホビトン・セット総支配人として忙しい毎日を送るラッセルは、毎朝5時に村を巡回し、庭や建物の手入れを怠らない。そんな彼が誇らしげに語る。「皆さん、期待よりも不安を抱えてやって来ます。映画や本で魅了されたファンタジーの世界に入り込む…その発想にワクワクしつつも、実際にホビトンを近くで見たら失望するのではないかという不安です。けれども、ここではすべてが想像以上にリアルで、すばらしい。だから、誰もが圧倒され、感動で言葉も出ないほどなんですよ」。

「快適で暖かく、楽しく暮らせるホビトン」を再現するというジャクソン監督の強い意向に沿って、撮影の一年以上前からホビットハウス周辺の花壇や庭や生け垣を作り始めた。壁や石垣の亀裂から草が生えてくるのを待ち、焼き上がったレンガにヨーグルトや酢を塗り込んで時間や生活感を表現する。こうして単なる撮影セット以上のものになったホビット村には間違いなく一見の価値がある。

とはいえ、ホビットハウスの内部が現実には体験できないのはたしかに残念なこと。そこで次回、次々回はホビットハウスを製造販売する会社、そしてDIYでホビットハウスをつくってしまった人をご紹介したい。乞うご期待。

*ホビトン・ムービーセットは、マタマタから20キロ、ロトルアから87キロ、オークランドから180キロに位置する。各地出発の日帰りツアーがたくさんあるが、要予約。詳しくはホビトンのウェブサイトで。

 

出典:Hobbiton™ Movie Set 

        Tourism New Zealand

文責:林 はる芽

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林 はる芽

フリーランスの翻訳家・エディター 日本語・フランス語・英語、時々スペイン語・ドイツ語を翻訳。 最近のおもな訳書にフレデリック・マルテルの3著『超大国アメリカの文化力』(共監訳)(岩波書店2009)『メインストリーム』(同2012)『現地レポート 世界LGBT事情』(同2016)、Kenjiro Tamogami, et.al. Fragments & Whol (Editions L’Improviste 2013) [田母神顯二郎他『記憶と実存』(明治大学 2009)]など。

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