《 世界のワクワク住宅 》Vol.004

オーロラを快適に体験できる部屋 〜カクシラウッタネン(フィンランド)〜

投稿日:2018年3月15日 更新日:

©Valtteri Hirvonen

オーロラは南北両極地方の上空に生じる、世界で最も美しい自然現象のひとつ。冬の深夜が観察に最適なのだが、発生の予測は難しく、極寒の地で防寒具に身を包み、夜更けに空を見上げて、極光のスペクタクルをひたすら待ち焦がれる————これが伝統的なオーロラ観察のスタイルだった。ところが、フィンランドには快適にオーロラを体験できる部屋があるという。ベッドに寝転がってオーロラを見る?! 何とも心惹かれる話ではないか。

©Kakslauttanen Arctic Resort

©Valtteri Hirvonen

このガラス張りの部屋、通称「ガラスイグルー」はカクシラウッタネン・アークティック・リゾートの一室。このホテルは北極線(北緯66度33分)から250キロ北上したラップランドに位置し、隣りはフィンランド最大のウルホケッコネン国立公園。周囲に人工光はほとんどなく、漆黒の天空に色彩が映え、オーロラを見るのに理想的な土地である。そう、今回の物件は「住宅」ではない。だが、ガラスイグルーは居住空間として実に面白い建造物なので、あえて「世界のワクワク住宅」でご紹介する次第だ。

©Kakslauttanen Arctic Resort

©Kakslauttanen Arctic Resort

ところで…写真を眺めてワクワクしながら、素朴な疑問が頭をよぎる。イグルーの上に雪は積もらないのだろうか? ガラスは曇らない? 結露は? いったい、どんなガラスなのだろう? 室温は? ホテルには雪のイグルー(日本でいう「かまくら」)もあるが、「外気温がマイナス30〜40度でも、スノーイグルーの中はマイナス3〜6度に保たれて暖かい(!)」というウェブサイトの説明を読み、やや不安になる。

©Kakslauttanen Arctic Resort

そこで、ホテルに直接尋ねてみると、広報担当のミカ・ヴィッタネンが速攻で答える。「一般的な断熱ガラスとはまったく異なる、フィンランドで特別に開発された特殊ガラスを使っています。電気でガラスを温める仕組みで、雪はこの熱で解けるから積もることはないし、結露もなく、ガラスも曇らない。このガラスには室内を暖かく保つ効果もありますが、部屋を暖めるのはやはり室内に設置したパワフルな暖房システムです。ともかく、どの部屋でも都会のホテルのように暖かく過ごせますからご安心を。あ、スノーイグルーは別ですが」。

企業秘密ゆえか、特殊ガラスの詳しい説明は聞けなかったが、ガラスイグルーの中は暖かく、視界良好であるのは間違いなさそうだ。ただ、ガラスイグルーに宿泊できるのは毎年8月下旬から翌年4月下旬までのオーロラが見える時期に限られる。

©Valtteri Hirvonen

©Kakslauttanen Arctic Resort

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天空にオーロラが現れると、ホテルは宿泊客にベルで知らせるので、夕食後にベッドでうたた寝しても見逃すことはない。それでも基本的な疑問が残る。オーロラは毎日発生するわけではない。ミカは言う。「たしかに、リゾート滞在中にオーロラは見られないかもしれない。でも、静寂の闇を見上げて、満天の星を眺めるのもすばらしい体験でしょう?」

©Kakslauttanen Arctic Resort

©Kakslauttanen Arctic Resort

では、客室でのインターネットは? 「管理棟とレストランではwifiが使えます」。Nokiaの国だけあって、携帯電話はホテルを含め、ラップランド全域でつながるという。ともあれ、オーロラ以外にも数々のアウトドアの楽しみが用意されている。ハスキー犬やトナカイに引かせるソリ遊び、乗馬、サウナ後に氷の張った水に飛び込むアイススイミング(スタッフが氷を割ってくれるそうだ!)等々。スノーモービル、ソリ、スキーはもちろん、ブーツや防寒具もホテルでレンタルできるので心強い。

©Kakslauttanen Arctic Resort

©Valtteri Hirvonen

カクシラウッタネン・アークティック・リゾートは、1973年夏に旅行中の若者ユッシ・エイラモがガス欠のため、ここに野宿したことからその歴史が始まる。彼は一夜でこの地の大自然に魅了され、翌年までに自分用の小屋を建て、旅行者のために小さなカフェをオープンする。それから40年余、家族経営の基本を守りつつ、広大な敷地に180の客室(ベッド数450)を擁するリゾート・ホテルにまで発展させた。創業者ユッシは今もホテルの最高責任者として多忙な日々を送っている。世界的に有名なガラスイグルーも「ゲストに快適なオーロラ体験を提供したい」というユッシの強い希望から始まり、1999年のプロトタイプ製作から現在の完成形にいたる開発を彼は一貫して支えた。

©Kakslauttanen Arctic Resort

イーストヴィレッジとウェストヴィレッジに分かれるホテル敷地内には、ガラスイグルー(2人用53、4人用12)が65あるほか、ログキャビン(10人まで宿泊可能)が60、ケロ・ガラスイグルー(ラップランドのケロ松のログキャビンとガラスイグルーを組み合わせた小屋。6人まで)が40あり、さらに60㎡あるクイーンスイート、新婚カップルのためのウェディングロッジ、昔の民家を再現した小屋なども点在する。

©Kakslauttanen Arctic Resort

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客室以外には、雪のチャペル、サウナ3棟(うち一つは世界最大)や、トナカイ料理などラップランドの伝統料理(カクシラウッタネンは「2つのトナカイ肉貯蔵庫」の意)が楽しめるレストランが複数ある。ログハウスとしては国内最大のセレブレーションハウスでは、250人規模の会議やパーティが開催可能だ。

©Valtteri Hirvonen

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©Kakslauttanen Arctic Resort

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カクシラウッタネンは生涯心に残る体験になる————ホテルの広報担当ミカ・ヴィッタネンはこう断言する。ワクワク感が高まったなら、カレンダーでオーロラシーズンとガラスイグルー予約可能時期を確認して(例年8月下旬〜4月下旬)、旅支度を始めよう。快適なオーロラ観察から、ガラスイグルーを住宅に応用するヒントが見つかるかもしれない。

©Valtteri Hirvonen

文責: 林 はる芽

写真/photographs: Valtteri Hirvonen (photographer)、Kakslauttanen Arctic Resort

問合せ先:Kakslauttanen Arctic Resort 

*宿泊料金は季節や広さによって異なるが、ガラスイグルー2人用が約550ユーロ〜、4人用が約1030ユーロ〜(2018年2月現在)。フィンランド北部のイヴァロ空港から車で30分、空港とホテルを結ぶ無料送迎バスもある。

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林 はる芽

フリーランスの翻訳家・エディター 日本語・フランス語・英語、時々スペイン語・ドイツ語を翻訳。 最近のおもな訳書にフレデリック・マルテルの3著『超大国アメリカの文化力』(共監訳)(岩波書店2009)『メインストリーム』(同2012)『現地レポート 世界LGBT事情』(同2016)、Kenjiro Tamogami, et.al. Fragments & Whol (Editions L’Improviste 2013) [田母神顯二郎他『記憶と実存』(明治大学 2009)]など。

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