東池袋駅から歩いて8分ほどの静かな住宅地に、以前は重厚感があっただろう大きな門があります。古さのあまり赤いペンキは所々はげ、少し斜めになっているようにも見えます。奥を覗くと、都心部とは思えないほど木々が茂り、飛び飛びの石畳の奥には母屋が1つと大小三つの離れ(家)。まるで不思議の世界に迷い込んでしまったかのような場所です。物件コード「ワク賃001」の住民は、この離れの2つをまるまる借りることができます。大きな家の部屋数はなんと、5つ。現在、同じ大学でファッションを学び、社会人2年目に突入した24歳の夢見る娘4人が、賑やかに暮らしています。
サチさん(仮名):大手百貨店勤務(婦人服売り場)
ヨシノさん(仮名):会社員(婦人服等のテキスタイルデザイナー)
チカさん(仮名):フリーランス(舞台衣装製作)
スズさん(仮名):古着屋勤務(服の販売)
レトロな家に一目惚れ!
「楽しそうだから」と始めた気楽な4人暮らし
木製の古い引き戸式の玄関を開けると、すぐ右手に4.5畳の小さな和室がありました。ちゃぶ台がよく似合うこの部屋が、4人娘のリビングルーム。押入れの襖は外され、中には20冊以上のファッション雑誌に、漫画が並びます。この部屋で座ってインタビューが始まりました。
どうやって一緒に暮らすことになったんですか?
サチさん
大学卒業間近になって、一人暮らしの部屋を更新せずに出ようと思った私と、実家を出なきゃいけないヨシノちゃんとでルームシェアするつもりでした。レトロな物件に住みたくて個性的な物件を扱うサイトを見ていた時に、大好きな磨りガラスのあるこの家を見つけました。でも二人で18万円は予算オーバー。だからもう一人住んでくれる人を見つけようと、友人達に声をかけたんです。
ヨシノさん
そうしたら、私の友人のスズちゃん、サチちゃんの友人のチカちゃんが興味ある、といってくれました。けれどチカちゃんとスズちゃんにとって一人6万円の家賃は高いといいます。それなら一番広い部屋を二人で使えば3万円ずつで済むよねとなり、話がまとまりました。
チカさん
私は練馬区に実家があるので、無理して一人暮らしする必要はなかったのです。でも都心に近く、アトリエとして使える小さな家があるこの家はとても魅力的に思えました。面白そうだし、3万円だったら住んでもいいかな、と思って一緒に暮らすことにしました。
物件を見た時の印象は?
サチさん
初めての時、4人全員揃って来たんです。門から玄関まで続く専用の小道と石畳にワクワクしました。
スズさん
シェアハウスはよく話題になっているけれど、マンションのシェアハウスよりずっと楽しいって思いました。まるでおばあちゃんの家に帰ってきたかのような安心感があるんです。
そこから4人で暮らす準備がスタートしたのですね。
チカさん
はい。私の実家の車でホームセンターに行って砂利を運んだり、イケアにいっていみたり、初めの頃は色々やりました。
スズさん
1年目は色々やりましたね。夏は石畳のところで花火をしたり、敷地内の落ち葉を集めて焼き芋をしたり、クリスマスプレゼントにパジャマを交換したり。お正月には着物を着て初詣に行きました。毎日がとっても楽しかったです。
ヨシノさん
時間が合えば、このお座敷でテレビを見ながら夜ごはんを一緒に食べることもあります。でも最近はみんな仕事が忙しくなって、活動時間も違うから家で会えることが少ないかな。
サチさん
最近は出かける時間も、帰宅時間もバラバラなんですよね。同じ家に住んでいるのに会わないことの方が多くなりました。3〜4日姿を見ないなんてしょっちゅうです。
一緒に暮らす上でのルールはありますか?
サチさん
初めの頃は、掃除やごみ出しを当番制にしようとしていたので、(お座敷リビングの壁に置かれたコルク板を指さしながら)そこに順番が書いてあるでしょう?でも、今は気づいた人がやるって感じになりました。
チカさん
同じ人がやっちゃってるかも。(笑)
ヨシノさん
電気、水道、ガス、かかる費用は全て均等に割っています。例えばお醤油や調味料にしても、それぞれが自分のものは自分のもの、はっきり分けています。食事もそれぞれ別です。
サチさん
だからといって仲が悪いわけじゃないですよ(笑)それぞれのペースで、自由に暮らしているという感じです。
チカさんとスズさんは、二人で6畳一間に住んでいます。不便はありませんか。
チカさん
ありません。どちらかが寝ているときは間接照明をつけたり、携帯の明かりを使ったりして、静かにお布団に入ります。
スズさんのお洋服や雑貨がエキゾチックですね。
スズさん
古着やアジアンテイストが大好きなんです。1階にあるトイレのデコレーションも私が作りました。
忙しい4人を繋ぐアトリエでの共同作業
忙しくなった4人が共に過ごす時間は以前に比べたら少なくなりました。それでも、ルームメイトを手伝うために、アトリエに籠って総がかりで衣装を手縫いすることもあるそうです。
アトリエはどう使っているのでしょう。
チカさん
私は、舞台衣装を作る仕事をしているので、アトリエで布を裁ったり、ミシンをかけたりしています。本番は決まっているので常に時間に追われています。深夜に作業することも多いのですが、周囲の家と離れているので、音や明かりが漏れてしまうのを気にせずやれるからとてもいいです。
なるほど、みんなそれぞれの作業スペースがあって、ミシンを置いているんですね。
チカさん、夜にここで一人作業をするのは寂しくないですか?
チカさん
必死なので、そんなこといってられないかも。そういえば、アトリエの天井に、ネズミがいるみたいで。夜中に一人で作業している時に「チュー」という鳴き声を聞きました。
ヨシノさん
時々みんなでチカちゃんの仕事を手伝うんです。
チカさん
明日の朝までに間に合わないと焦っている時とか、どうしても間に合わないとき、みんなが手伝ってくれます。全員で衣装の裾を縫ったりすることもありました。考えてみたら、この1年、ここで暮らしていなかったら私の仕事は成り立たなかったかもしれません。都心に暮らしているから、朝早くに舞台の現場に行くことも、深夜に帰宅することも可能だし、みんなに手伝ってもらえなかったら終わらなかった仕事もあったと思います。
スズさん
みんなでやると楽しいよね。大学時代、締め切りに追われていた時のことを思い出すんです。みんなでやっているとまるで学生時代に戻ったみたい。
サチさん
これから先、こんな暮らし方をすることはたぶんないと思います。アトリエのある家なんてなかなかお目にかかれないと思いますし。ここでしかできない経験をたくさんしたと思います。私たちは、全員2階で暮らしたけれど、1階にもたくさん部屋はあるし、いろんな暮らし方ができると思います。
取材・執筆:株式会社HelloNews
イラスト:コミック堂