《 世界のワクワク住宅 》Vol.039

お姫様ベッドと公爵家の書斎・・・古城ホテルで中世へタイムトリップ!<アウフ・シェーンブルク>〜オーバーヴェセル(ドイツ)〜

投稿日:2021年2月11日 更新日:

洋の東西を問わず、歴史ある城を訪ねることは旅の醍醐味の一つ。その土地のかつての領主の拠点であった城にあるのは堅牢な城壁や、戦術を考えた建物の造り、富や権威を物語る調度品や装飾など。こうしたものに今も触れることができるのであれば、その時代へのしばしのタイムトリップが楽しめるはず。

今月ご紹介するのは、中世の城を改装したホテル。ユネスコ世界遺産であるドイツ・ライン川渓谷中流上部に属する街、オーバーヴェセルを見下ろす丘の上にある「アウフ・シェーンブルク」という名の古城だ。12世紀頃に築かれ、19世紀後半にホテルとして再建され、現在も人気を博す「生きた城」である。

シェーンブルク城の建設は、12世紀前半に始まったとされる。持ち主であるシェーンブルク公爵家は、オーバーヴェセル一帯の支配権を持ち、ライン川を通る船から関銭を徴収していたため財源は潤沢にあったという。城の増強を繰り返し、ライン川でも屈指の大きさを誇る城となったそうだ。

中世の時代には珍しくシェーンブルク城主はすべての息子に相続権を与えていたため、城主の死後、多い時で24家族、250名ほどが城内に住んでいたという。

これ、ちょっと想像していただきたい。
高さ25メートルもある城門と厚い城壁の内側で、これだけの人数が暮らしていたのだ。横並びとは言え、家族間の人間関係はどうだったのだろうか。そう考えると、この美しい古城も悲喜こもごもの物語の舞台であったのかもしれない。

1688年にフランス王ルイ14世が、神聖ローマ帝国の選帝侯の一人であったプファルツ選帝侯の領土の継承権を主張してプファルツ継承戦争を起こす。この時に、ここオーバーヴェセルを含むライン地方は主戦場となり、翌年の1689年にはシェーンブルク城も戦火に巻き込まれてしまう。その後、一族の嫡流男子が絶えたこともあり、城は廃墟のままとなった。

その後2世紀の間に所有者が幾度か代わったが、1885年にドイツ系アメリカ人の銀行家がオーバーヴェセルの街から城を購入。莫大な金額を投じた改装を行い、再び城に命を吹き込んだ。1957年には現在の所有者であるヒュットゥル家が城を借り受け、ホテルとしての営業を始める。

ざっと振り返ったこの700年ほどの歴史を頭の片隅に置いて、いよいよ城の内部を探索してみよう。

オーバーヴェセルに向かう列車はライン川沿いを走るので、ぶどう畑や木組みの家々からなる美しい風景を堪能できる。駅から続く石畳の坂道を上がると、重厚な城の外壁が見えてくる。タクシーが拾いにくいらしく、旅行者泣かせの往路だそう。この急勾配を馬で上がるのが常だった中世の時代に思いを馳せながら、いざ到着。

チェックイン時に手渡されるのは、昔の巻物のような敷地内の地図と手のひらサイズの騎士のフィギュア。このミニ騎士、実は部屋の鍵だというから洒落ている。部屋に入ると、ウェルカムドリンクとしてクリスタルのデキャンタに入ったシェリー酒が用意されている。

現在は27の客室があるが、もっとも小さいシングル部屋は10.5㎡。一番大きなスイートは75㎡。ほとんどの部屋にはバルコニーとテラスがあり、眼下のライン川の風景を存分に楽しめる。

それでは、いくつかの部屋をご紹介しよう。
まずは地上階で人気の11号室。アーチ型の窓からふんだんに差し込む光が青と黄色を基調とした室内を照らす、美しい空間だ。特徴的なのは、部屋の中にキャノピーのような庇があり、その下にソファが組み込まれている点。カーテンもつけられている。画像ではソファの状態だが、ここを追加ベッドとして使うこともできる。

アウフ・シェーンブルクは建築保存の観点からクーラーなどが一切設置できないようになっている。この部屋は夏の間はだいぶ暑くなるそうで、宿泊の際にはその旨注意されることがある(代わりに首振り扇風機が置かれている)。こうしたちょっとした不便さも、古の暮らしがどうであったかを想起させ、面白い。

25号室は城内の中庭部分にある別棟のブライダルスイート。大きなエントランススペースの先に浴室とシャワーがあり、階段を上がると、客間が広がる。奥のマスターベッドルームにはまさに物語に登場するような四柱式ベッドと、傍には燭台と蝋燭。「お城と言えばこれ、これ!」というような調度品に彩られた、瀟洒で重厚な空間だ。

こちらは敷地の中央部に位置する切妻屋根の衛兵所。小さな独立した家となっており、内装が非常に凝っているため、人気が高い。

ここでは壁面の形状を生かし、天井付近までたくさんの本が並べられている(読みたいものがあったら、誰かに取ってもらえるのだろうか・・・)。趣のあるライティングテーブル、たくさんの小窓、屋根裏部屋を思わせるニッチ風のベッドスペース。すべてのディテールがアウフ・シェーンブルクの誇る「美しくロマンティックな空間」を体現している。

浴室には智天使を象ったような装飾やキャンドルがあり、実に甘美な演出だ。浴槽のタイルの模様と窓の格子模様が視覚のリズムを生み出している。

そして、最後にご紹介するのは、この城にまつわる「ローレライの7姉妹」の伝説をテーマにした部屋。
かつてシェーンブルク城には美しい7人の姉妹が住んでいたが、いずれも情けを知らない娘であった。求婚する騎士たちを冷たくあしらった挙句、歌を歌いながら小舟に乗りライン川へと逃げたという。

ライン川の水面から突き出ている「ローレライの7つの処女岩」が彼女たちの冷たい心を象徴している、という言い伝えだ。シェーンブルク城からもライン川の対岸にあるこの岩の一部を見ることができる。

こちらの「7姉妹の部屋」は43㎡のゆったりとした大きさで、気高い姫君たちを想起させる天蓋つきのベッドが特徴。鏡台の前に置かれた、ちょっとユーモラスな7姉妹の置物にもご注目いただきたい。

アウフ・シェーンブルクでは、庭園の散策やテラス席での朝食を楽しむことができるほか、城の建築方法などを伝える博物館(※2021年2月現在はコロナ禍とあって閉館中)や展望台がある。

宿泊料はさぞお高いのかと思いきや、ハイシーズンでもシングルの部屋は一泊17,000円ほど。天蓋付きベッドのある一番大きなスイートでも一泊48,000円。いずれも朝食とディナーコースが付いている金額なので、リーズナブルと言えるのではないだろうか。

築城当時からある部屋に滞在し、ライン川を見下ろすテラスからの絶景を楽しむ。この城にまつわる物語や伝説に触れ、城を中心に栄えた街と当時の人々の暮らしに思いを馳せる。アウフ・シェーンブルクは、そんな豊かな時間を約束する唯一無二の古城ホテルなのである。

写真/All sources and images courtesy of the Castlehotel Schönburg

アウフ・シェーンブルクのサイトはこちらから >>

取材・文責/text by: 河野晴子/Haruko Kohno

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河野 晴子(こうの・はるこ)

キュレーターを経て、現在は美術を専門とする翻訳家、ライター。国内外の美術書、展覧会カタログの翻訳と編集に携わる。主な訳書・訳文に『ジャン=ミシェル・バスキア ザ・ノートブックス』(フジテレビジョン/ブルーシープ、2019年)、『バスキアイズムズ』(美術出版社、2019年)、エイドリアン・ジョージ『ザ・キュレーターズ・ハンドブック』(フィルムアート社、2015年)、”From Postwar to Postmodern Art in Japan 1945-1989”(The Museum of Modern Art, New York、2012年)など。近年は、展覧会の音声ガイドの執筆も手がけている。

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