《 小商い賃貸推進プロジェクト 》Vol.014

日本屈指の「ものづくりのまち」東京都大田区に、立体長屋形式の新築小商い賃貸物件「ROOOJI大森中」が誕生

投稿日:2025年4月7日 更新日:

[小商い建築ウォーカー神永セレクト#010]

今回訪れたのは、東京都大田区大森中に誕生した「ROOOJI(読み:ろーじ)大森中」という新築小商い賃貸物件です。京急線「梅屋敷」駅から徒歩5分圏内という好立地で、駅を降り、東側の大きな道路を横断すると”梅屋敷東通り商店街”が伸びています。
飲食をはじめ、衣服や理容店など小規模のお店が多く立ち並び、まさに”小商い”と暮らしが隣り合う町。商店街の小道を入ると「ROOOJI大森中」に辿り着きます。
大田区には東京で最も町工場が多く、ものづくりを生業にした人が多く集まる町であるという特徴があり、小商い賃貸との相性の良さからリリース時より注目していた筆者。
敷地の特性を最大限に生かした、ユニークな外観が人目を引く建物がどのようにしてできたのでしょうか。事業主であるフジケン株式会社さんと、企画及び設計者であるNPO法人 CHAr一級建築士事務所さん(GANEMAR共同設計)が開催する内覧会に伺い、お話を聞いてきました。

1.地域や敷地の特性を生かした、立体長屋形式の小商い賃貸

敷地は第一種住居地域に位置しており、住環境の保護を軸としたエリア。周辺には準工業地域が広がり、生活と隣り合う規模の”町工場”が多く見られます。ものづくりが身近に馴染む、生き生きとした、生活感のある大田区らしい風景が広がっています。

また、敷地は旗竿に近いL型形状をしていて、正形の建物計画が難しい形状をしているのですが、そこにも地域らしい理由がありました。それは、元々2つの建物が立っていた土地が合体したが故の変形敷地だということ。 一方の土地が接道していなかったため、再度建設することが難しく、接道しているもう一つの土地と一体になったという背景があるのだそうです。そして、密集市街地において、同様の背景による変形敷地は今後も発生してくるだろうとNPO法人CHAr・代表理事の連勇太朗さんは言います。

配置図・1階平面図。四周建物に囲われていることがわかる

こうした地域の背景や敷地の特性から導き出された建築の形式が「長屋」です。
長屋形式で建築基準法上必要となる敷地内通路を含め、旗竿敷地の”竿”にあたる部分は、各住戸への動線空間のみ。そして、その動線空間である「鉄骨階段」が建物の顔にもなっているのです。

内覧会時、建物外観の様子。個性的なデザインの鉄骨階段が道路側へ大きく伸びる

「町工場が多くあるこの地域では、歩いていて突然、特徴的な鉄骨階段に出くわします。家族経営の工場では、大きな土地取得が難しく変形敷地であることが多かったり、1階にクレーンなど高さが必要な作業場を確保しようとすると、普通ではない愛らしい格好の階段の姿が町に出てくることになるんです」と話す連さん。

手すりのデザインがなんとも愛らしい鉄骨階段

ROOOJIでは、こうした町の特徴を拾い上げ、風景に参加するようにして、シンボリックでグラフィカルな鉄骨階段を設けることにしたのだそうです。

密集市街地という地域から生まれる、正形な建物の配置が困難な変形敷地に対して、大田区ならではの「小商いやものづくり×住まい」というライフスタイルプログラムを掛け合わせることで、個性を付加価値とする魅力的な物件となっていることがわかりました。事業主であるフジケンさんによれば、このROOOJIを新しい賃貸住宅シリーズとして展開していくことを想定しているのだそうです。今後の続報が今から待ち遠しいですね。

2.小商い利用が可能な土間部屋、「チューブ」

チューブを店舗やSOHOとして利用する際のイメージパース

それでは、実際の部屋の間取りがどうなっているのかご紹介します。
全部で5住戸あり、それぞれ間取りや面積が異なるのですが、全ての住戸に、小商い利用が可能な「チューブ」と呼ばれる土間部屋が配置されています。チューブは、敷地を貫通するように配置されていて、密集市街地で閉鎖されがち外壁面に、隣地の建物と建物の隙間に視線が抜けるよう大きな窓が配置されていることも特徴です。

チューブの内装は、床、壁、天井共に下地状態(未仕上げ)となっていて、使い方に応じて、壁天井を塗装したり、床にフローリングを貼ったり、自由にDIY可能という設えです。

3階E住戸の「チューブ」。内装の未仕上げ状態がわかる

DIYをする際は、内容を事前に申請して許可をもらってから着手いただくという流れを想定しているとのことでした。賃貸契約上、原状回復義務はありますが、退去時オーナー確認次第では、その限りではないそうです。
水回りの引き込みはないため、利用可能な使い方は、事務所、教室、サロン、アトリエ、物販等となります。

A住戸平面図

1階に位置するA住戸は17.27m2と最もコンパクトで家賃は7万円(共益費1万円込)。そのうち12.62m2がチューブになっており、道路側は小商いスペースとして利用、残りはプライベート利用とするなど、小商いと生活が混ざり合うようなライフスタイルが想像される間取りです。

B住戸平面図

B住戸LDKの様子

B住戸チューブの様子

A住戸の隣、1階B住戸の面積は48.96m2と、二人暮らしにも十分な広さです。その内チューブの面積は10.73m2で、家賃は17.8万円(共益費1万円込)となっています。

C住戸平面図

D住戸平面図

C住戸チューブの様子。D住戸も同規模で同様の未仕上げ状態

D住戸LDKの様子

D住戸水回りの様子

2階のC、D住戸は、それぞれ33.84m2、33.07m2と、同程度の面積の住戸が配置されています。家賃はどちらも13.2万円(共益費1万円込)です。
C住戸のチューブの面積は13.64m2で、D住戸は10.35m2。一人暮らしの規模感で、A住戸と比較すると住居スペースとチューブが明確に分かれているため、メリハリある小商い暮らしの実現が想像されます。

E住戸の平面図

E住戸のLDKの様子。大きな開口部から日差しが入り、広々とした印象。©kentahasega

E住戸チューブの様子。©kentahasega

最後に、3階のE住戸です。面積は59.56m2で、家賃は21.8万円(共益費1万円込)です。二人暮らしやファミリーも可能な規模で、チューブ面積は13.64m2。最上階で周囲の建物より少しだけ高い場所に位置するため、1、2階と比較して窓越しの風景に広がりがあることが嬉しいお部屋です。
2025年3月末時点でB,C,D住戸を募集中です。気になる方はぜひ一度内見へ行っていただき、自身のライフスタイルの実現イメージを膨らませてみて欲しいなと思います。

3.路地的な体験が楽しい小商い賃貸

B住戸玄関先から道路側を見る

内覧会では、全ての部屋を拝見したのですが、建物を歩いてめぐる中で「ROOOJI(ロージ)」という名称に込められた想いを随所に感じることができました。
先に紹介した間取りに関連しますが、冒頭配置図で見るように建物中央に水回りが集約されているため、居室はそれを囲うようにコの字に配置されています。自ずと生活動線が長くなり、面積以上の広がりを感じられる設計になっています。
同時に「チューブ」空間に設けられた、周囲に積極的に設けられた開口部は、密集市街地にある、建物同士の隙間を切り取っているため、折れ曲がる生活動線と相まった路地的環境に住まうことの楽しさが体現されているのです。

歩いていると目に入るROOOJIの看板

敷地周辺に広がる、幅員の小さな道路や生活感あふれる小道、そして商店街。いろんな小道を彷徨い、歩く先に何があるのか、何に出会えるのか期待するような体験こそ、密集市街地らしい「路地的体験」であると考えます。 ROOOJIでは、そうした路地的体験を、立体空間として、また住まい以外のプログラムを挿入するという操作により、建物にとどまらない、地域や生活圏含めた偶然性を積極的に取り入れて楽しむ住まいになっているのではないかと思いました。
入居者さんが生活を始めて、住戸からじわじわと心地よい生活感があふれてくる風景に期待して、改めて訪れたいと思います。

文:神永侑子

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神永 侑子

神永 侑子

建築家。 AKINAI GARDEN STUDIO 共同代表/YADOKARI株式会社アーキテクチャーデザイン。1990年茨城県生まれ。2012年愛知工業大学卒業。同年から2020年株式会社オンデザインパートナーズ勤務。2018年、横浜弘明寺にシェア店舗アキナイガーデンの開業と共にAKINAI GARDEN STUDIO設立。建築設計をメインとして企画から運営まで一貫した活動に取り組む。主なPJに、「洞窟のある家」(2021年)、共創型コリビング「TAMUROBA」(2022年)等。共同編著書に「小商い建築、まちを動かす!」(2022年)。

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