小商い空間に生活感を持ち込まない
ミニオフィスやミニ店舗空間と住まいが一体となった賃貸物件(=小商い賃貸)を増やしていこうという本プロジェクトですが、小商い賃貸をつくるときに、いくつか留意すべき点があるように思っています。
そのうちのひとつに生活感を見せない工夫が挙げられます。
小商い賃貸は暮らしの場でもありますから、生活感がゼロというわけにはなかなかいきません。
でも、たとえば洗い物が残されたキッチンや、干してある洗濯物などは極力見せたくないですよね。
今回は、2020年に東京・南青山に新築した小商い賃貸マンション(私が企画させていただきました)をご紹介したいと思います。
ここでは生活感を見せないために、さまざまなアイディアを盛り込んだのですが、そのひとつひとつを簡潔にお伝えいたします。
南青山アドレスの小商い賃貸
小商い賃貸は、ミニオフィス付きにするにせよ、ミニ店舗空間付きにするにせよ、ビジネスですから立地の良さはある程度要求されると考えています。
集客が全く見込めない場所でミニ店舗を開いてもやはり厳しいですし、スタッフが勤務することを検討しているのならミニオフィスでもやはり通勤しやすい場所にあると便利です。
東京・南青山につくった小商い賃貸マンションは、その点では抜群に優れていると思います。
住所は東京都港区南青山四丁目で、いわゆる「南青山アドレス」と呼ばれているエリア。
住居としても人気のエリアですが、名刺に南青山とあると、ビジネス的にはずいぶんと印象がいいようです。
主な利用駅は東京メトロ銀座線・半蔵門線・千代田線の「表参道」駅と、東京メトロ銀座線の「外苑前」駅。前者からは徒歩9分、後者からは8分なので、駅チカとは言いづらいですが、もっと近ければ家賃が跳ね上がりますので、大きな商売を行うのではない小商い賃貸としては絶妙な立地と言えるのではないでしょうか?
一方で南青山の小商い賃貸ですから、生活感はいっそう表に出すべきではないということもあり、精一杯工夫を施してみました。
「生活感を見せない工夫」その1:メゾネットを多用
「生活感を見せない工夫」の筆頭は、居室にメゾネットを多用し、ワークスペースと居住スペースを平面でなく立体的に分けるようにしたことです。
フラットな居室でも小商い賃貸に不適当というわけでは決してなく、建具で仕切るなどしてワークスペースから居住スペースを見えなくすることはできます。
しかし、平面ではなく立体的に分けてしまえば、さらに効果的であることは間違いありません。
メゾネットタイプは、1階と地下1階とに分けたタイプが3室、2階と3階とに分けたタイプが1室用意されています。
こちらは2階と3階のメゾネット仕様になっている2 A号室の間取図。
2階は主にミニオフィスとして利用されることを想定しています。
トイレはお客様やスタッフもお使いになることを考えて2階に設置しました。
3階にはキッチンやシャワースペース、洗濯機置き場など生活に必要な設備を集めています。生活感の出てしまうものは3階に集約したということです。
一方、1階・地下1階をメゾネットとしたタイプでは、1階が店舗として使われる可能性が高いと考え、店舗スペースを最大化するためにトイレもキッチンも全て地下1階に設置しました。
つまり生活感を全く見せずに済むというわけです。
「生活感を見せない工夫」その2:キッチンを見せない
メゾネットにしていないタイプのお部屋が2階と3階に1室ずつありますが、ここでもキッチンを見せないために、キッチンスペースを小部屋にしました。
キッチンをロールスクリーンなどで隠す方法もありますが、この小商い賃貸マンションではキッチンスペースを建具で仕切って小さな空間にし、完全に見えなくしてあります。
働きながら暮らせる場所とするにはワークスペースをできる限り広くとったほうがいいと考え、キッチン自体も小さなものにしています。このへんの割り切りは大事な気がします。
「生活感を見せない工夫」その3:トイレの音が聞こえないよう配置
生活感の一部にはトイレの音というものもあると思います。
来客や他のスタッフに自分がトイレを利用しているときの音が聞こえるのは、ちょっと・・・というか、かなり嫌ですよね。
南青山の小商い賃貸マンションでは、音漏れの防御のために、トイレの前にもうひとつ別の空間をつくるという工夫を施してあります。
こちらは1-B号室の地下1階の間取図ですが、この部屋では居室とトイレの間にキッチンスペースを設けました。
部屋から見ると、上の写真のようになります。
1枚目の扉を開けるとキッチンスペースになり、その奥の扉の向こうにトイレがあるという構成です。
扉2枚を隔てているので、トイレの音は相当セーブできます。
さらに1階共用スペースに女性専用トイレも設けてあります。
女性はトイレの音だけでなく、男性と同じトイレを使うということを敬遠する方も少なくないので、重宝されるのではないでしょうか?
「生活感を見せない工夫」その4:応接・打合せスペースとして屋上ラウンジを利用
お客様に生活感を見せないために、接客を屋上ラウンジで行うという方法も考えてみました。ここまで切り離せば、完全に生活感はしないですよね。
来客との商談だけでなく、スタッフとのミーティングも屋上ラウンジで行うと、リフレッシュできて良いアイディアが浮かんできそうです。
この屋上ラウンジは、照明器具も設置されているので、夜はお酒を飲み、表参道・外苑前の夜景を眺めながらゆったりと過ごしていただくことができます。
神宮外苑の花火も見えるので、夏場は特に利用価値がありそうですね。
「生活感を見せない工夫」その5:屋上に洗濯スペース
屋上ラウンジの反対側は洗濯機置き場と洗濯物を干すスペースになっています。
洗濯機はオーナー側で用意します。
ここで洗濯をするようにすれば、洗濯機の音を聞かせずにすみますし、干している洗濯物も見られることがありません。
ファッション誌のカメラマンやライターさんに選んでいただき満室稼働中
生活感を見せないことに重点を置いた、東京・南青山の小商い賃貸マンションはいかがでしたでしょうか?
記事中、ワークスペースを広く取るために、キッチンを小さなものにしたとご紹介しましたが、ほかにもバスルームをなくしシャワーブースだけにするという試みもしています。
このマンションを企画するために、SOHO利用可能とうたっている南青山周辺の賃貸マンションを見学して廻りましたが、キッチンやバスルームがとても立派で、その分、ワークスペースは少ししかないものばかりだったので、働きながら暮らしたい方のニーズには応えていないように感じました。
その発見から生活するための設備を最小化していくことを思い立ち、さらには生活感を見せなくする工夫が必要だと考えるようになりました。
おかげさまで、この南青山の小商い賃貸マンションはファッション誌のカメラマンさんやライターさんなどにご利用いただき、新築以来満室稼働が続いています。
物件の募集情報など、詳細は「ワクワク賃貸物件集」Vol.028に掲載しておりますので、合わせてご一読いただき、空き待ち登録をしていただけたらありがたいです。
文:久保田大介