《 ワクワク賃貸研究所 》Vol.013
菓子製造販売ができる賃貸住宅の研究
投稿日:2021年9月27日 更新日:
お久しぶりのワクワク賃貸研究所ですわ!
きなこ助手
きなこですわ! 久しぶりのワクワク賃貸研究所、張り切ってやっていきますわよ!!
(・・・シーン・・・)
きなこ助手
あ、あれ? 研究所に森下所長がいませんわ!!
・・・まさか夜逃げ!? 森下所長ったら、ちゃんと解約通知書と残置物所有権放棄同意書への署名捺印は済ませてますの!!??
タブレット端末
きなこ助手
おや、こんなところに見慣れないタブレット端末が・・・
森下所長
きなこ助手
画面に森下所長が映ってますわ! これが話題のテレゴングですのね!!
森下所長
それを言うならテレワークだ! 今の若い人テレゴングなんて知らないでしょ
きなこ助手
森下所長
うちはまだ子供が小さくてね。最近は在宅勤務も活用しながら研究をしているんだよ
きなこ助手
そうでしたわね! 森下所長は2019年末にお子様が誕生して、在宅でもお仕事ができるように自宅用PCや複合機を購入、その件で全国賃貸住宅新聞に取り上げられたのも束の間、赤ちゃんの日中のお世話やオムツ交換、泣いた時のあやしつけに夜中のミルク当番もやりながら契約書作成や管理レポート作成などの日常業務をこなしつつ、宅建マイスター・フェロー認定論文や各種原稿の執筆活動は寝かしつけが終わった後の深夜にやらざるを得ず、そのおかげで都合数ヶ月分の記憶がほとんどないと聞いていますわ!
森下所長
そこまで言わなくていいッ! さすがに今はだいぶ落ち着いてきたけどね
きなこ助手
森下所長
おっとごめん、そろそろ保育園の送りの時間だから、またかけ直すよ!
きなこ助手
菓子製造販売ができる賃貸住宅をつくるには?
きなこ助手
さて、森下所長がお子様を送っている間に優雅にモーニングコーヒー&ブレックファストとしゃれ込みながら、今日のテーマを予習ですわ!
指令書によると・・・ふむふむ、「自宅で菓子製造販売ができる賃貸住宅」の研究ですわ!
お菓子作りが得意な方が、自宅で製造したお菓子をインターネットで販売する・・・ということをする時に、賃貸住宅では何をする必要があるのかを調べるのですわね。
この研究所のパターンとしては建築基準法のチェックが必要な気がしますわね。
あと、お菓子の製造販売をするなら営業許可とかは必要なのかしら?
お菓子作りのためには一般的なキッチンだけでなく設備の追加も必要な気がしますわ
森下所長
やあ、お待たせ。
おおっすごいね、きなこ! 調べる必要がある項目はだいたい出そろってるじゃないか
きなこ助手
森下所長
きなこがまとめてくれたように、菓子製造販売ができる賃貸住宅をつくるには、まずは法的な側面の検討が必要だね。検討する必要があるのは建築基準法と、そして飲食業などの営業許可ルールをとりまとめている食品衛生法なんだ。
そしてこれらはハード面、つまり設備の問題も密接に絡んでくるはずだ。僕もそこまで詳しくないけど、営業許可のためには保健所の調査なども必要だから、許可をクリアできるような設備が賃貸住宅に設置されている必要があるだろう
きなこ助手
森下所長
まずは、建築基準法のチェックをするために、区役所の建築確認申請窓口に行ってもらうのが良いかな
きなこ助手
わかりましたわ! それでは森下所長入りのタブレットを持って、いざ出発!!
森下所長
あ、このタブレットはWi-Fi用だから電波の届かないところに行くと途・・切・・・・・れRRRRRRRR・・・・・・(ブツッ)
きなこ助手
区役所の建築課に来ましたわ!
きなこ助手
ふう、最近の役所にはWi-Fi環境が整備されているから森下所長も命拾いしましたわね
森下所長
画面に映らなくなっても死にかけているわけではないんだけど・・・
きなこ助手
さて、建築課では建築基準法上の問題がないかを確認するわけですわね。
役所のお姉さーん!! きなこですわ!
区役所の建築課さん
きなこ助手
かくかくしかじかで、賃貸住宅に住みながらその部屋の中でお菓子の製造販売を行いたいのですわ!
区役所の建築課さん
うーん・・・そうすると住宅兼店舗のような扱いになると思いますね。
まず前提として、このようなケースは原則として個別判断になるので、実際に建築したりする前にご相談をしていただければと思います
きなこ助手
森下所長
いやいや、ちょっと待って!! せっかく来たんだから、たとえばどんな条件だと難しいとか、そういうことも確認してみようよ
きなこ助手
区役所の建築課さん
そうですね、一般的な内容として注意していただきたいものは、
- 第一種低層住居専用地域はそもそも住宅以外の建築をする要件が厳しいので、特に注意が必要だと思います。
- それ以外の用途地域(※工業専用地域除く)では、それぞれ定められている「店舗」の面積要件を満たしていれば、基本的には問題ないのではないでしょうか。
- ちなみに、住宅や共同住宅の認定には原則として「キッチン・トイレ・バスタブ」の三点セットが必要です。たとえば、バスタブのないシャワールームのみの場合、形態によっては「事務所」や「寄宿舎」とみなすこともあり得ます。
- 自宅が別にあって、この賃貸物件にお菓子を製造販売するために通う、という使い方の場合はさすがに「事務所」や「作業所」とみなされると思います。
きなこ助手
ふむふむ、三点セットがないと住宅とみなされないことがありますのね
森下所長
それに、用途地域によって建築できる「店舗」の面積が違うから、そこには注意しなければいけないんですね
区役所の建築課さん
ただ、自宅で製造したお菓子のインターネット販売がそもそも「店舗」とまで言えるかどうかは判断が分かれると思いますから、やはり事前に自治体の窓口で相談いただくのが確実だと思います
きなこ助手
そんな感じの法的ギリギリグレーゾーンを狙うのが商売の秘訣だと、ブラック森下所長も言ってましたわ!
森下所長
きなこ助手
区の保健所に来ましたわ!
きなこ助手
森下所長
保健所さ。ここでは飲食業などの営業許可制度を担当しているんだ
きなこ助手
なんだか住宅や不動産にはあまり縁のなさそうな場所に思えますわね
森下所長
実は、営業許可の申請にあたっては建物の設備などの細かい要件が定められているんだ。今回の場合はどんなところに注意すれば良いか、確認してみよう
きなこ助手
保健所さん
きなこ助手
そもそも、お菓子の製造販売をするためにはどんな許可や設備が必要ですの?
保健所さん
それは「食品関係営業許可申請」が必要な業態ですね。
分類で言うと「製造業」のうち「菓子製造業」にあたります
(東京都福祉保健局健康安全部食品監視課発行「新たに食品に関する営業を始められる皆さんへ:食品関係営業許可申請の手引」より引用)
きなこ助手
まあ、許可が必要な業態にはこんなに種類がありますのね!
保健所さん
施設ごとの食品衛生責任者の選任や建物図面の準備などをしていただき、事前に所管保健所にご相談をお願いします
きなこ助手
ふむふむ、やはりここでも事前相談なのですわね・・・
保健所さん
設備もこの手引に詳しく書いてますが、菓子の製造場所には「シンク(食品等洗浄設備)」のほかに「手洗い設備」としてもう一つのシンクや洗面台・手洗い場が必要ですね 実は2021年6月に食品衛生法の改正があって、これまで「二層シンク」が必要だったのが「一層シンク」でもOKになりました。ただ、保健所としては二層シンクを推奨しています
きなこ助手
森下所長が大学~大学院時代にアルバイトしていた某飲食店のキッチンには二層どころか三層ぐらいのシンクがあって、大量のお皿の下洗いや閉店後のまな板漂白に使っていたようですわ
森下所長
僕の話はどうでも良いでしょ!
ちなみに今回は、住宅兼用の企画として考えているんですが、その場合に気をつけることってありますか?
保健所さん
ええっ!! 住宅兼用の話だったんですか! うーん、そうなるとけっこうハードルは高くなると思いますよ
きなこ助手
森下所長
保健所さん
そもそも住宅兼店舗の場合、営業許可の対象となる「製造場所」は住宅などそれ以外の部分とは区画されている必要があるんです。たとえば、1階が店舗で2階は自宅みたいな場合はわかりやすいと思います
きなこ助手
保健所さん
ただ、その「製造場所」に備えていただく設備は、営業のためにしか使ってはいけないんですよ。シンクや手洗い場もそうですし、調理用の給水設備や便所等も含まれます
きなこ助手
森下所長
つまり、営業許可のためには製造場所にシンク・洗面台・トイレを備えなければいけないけど、それを営業時間外に自家用に使うことはできないのか!!
保健所さん
もちろん、住宅の方にも住宅用のキッチン・洗面台・トイレがあれば生活はできると思います。保健所としてはあくまでも「製造場所」の確認はしても住宅の方は見ないわけですが、住宅部分にもシンクやトイレがないと矛盾が生じちゃいますね
きなこ助手
営業許可でほかに注意するポイント
きなこ助手
ちなみに、住宅をリフォームして製造場所にするような場合、ほかに気をつけることはありまして?
保健所さん
そうですね、たとえば「床」は水が染みないものをご準備いただく必要があります。通常の店舗用物件なら土間とかPタイルだと思いますが、住宅の場合フローリングはOKでも畳やカーペットはNGになってしまいます
森下所長
なるほど、住宅用ではありふれている床材が、営業許可の観点からはNGになってしまうこともあるんですね。
そういえば、最近「レンタルキッチン」といって、調理場所を複数の会員でシェアして営業許可を取る、ということもあるみたいですけど、これは問題ないんですよね?
保健所さん
そうですね、こちらの保健所でも許可を出したことがあります。製造場所の許可を1箇所だけ出して、複数の業者さんがまとめて利用する方式と、同じ場所で複数の業者さんがそれぞれ個別に許可申請を出す方式もあるようです
きなこ助手
保健所さん
ただ、たとえばですが、万一その場所で食中毒が出てしまった場合、許可の取り消しなどによって製造場所が利用できなくなってしまうので、そのリスクがあることは織り込んでおいた方が良いと思います
森下所長
もうひとつの大事な注意ポイント!
森下所長
さて、実は最初にきなこがまとめてくれたポイントに、もう一つ加えておかなければいけないことがあるんだ
きなこ助手
森下所長
入居者さんとオーナーさんそれぞれの「保険」の問題だね。特に、元々住宅だったものを住宅兼菓子製造場所にするような場合、住宅用のままだと不都合がでてくる恐れがあるんだ
きなこ助手
確かに、店舗にも対応できる保険に入ってもらう必要がありそうですわね
森下所長
というわけでこのままテレビ会議につなげて、保険の専門家の水谷力さんにお話を聞いてみよう!
きなこ助手
水谷力さん
こんにちは、ご相談ありがとうございます。
まず入居者さんに入ってもらう保険ですが、やはり住宅用だけではNGです。
「店舗総合保険」に入っていただく必要があるんですが、店舗の作業内容によってリスクが変わってくるのです。直火を使うかどうかがポイントです
ざっくりですが、普通の住宅用保険だけに入るのと比較して1.5~3.5倍程度の保険料になると考えて良いでしょう
森下所長
なるほど、けっこう高くなりますね。でも自宅製造とはいえ「商売」がかかわるから、そこは仕方ない気がしますね。
水谷力さん
そしてオーナーさんの保険ですが、こちらは菓子製造用の設備什器がオーナーと入居者どちらの所有物かによって変わってきます。
①入居者が所有する場合、オーナーの保険料は変わりません。
②オーナーが所有する場合、業務用保険になるので保険料は1.5~3.5倍程度上がります。
きなこ助手
②の場合は入居者さんと同じぐらい上がってしまいますのね!
水谷力さん
保険料の目安は、地域、建物の構造、補償内容(補償範囲、金額など)によっても異なるのでざっくりの概算です。
また2021年には火災保険の商品改定も予想されるため、それによっても変わるかもしれません。火災保険は、このところ数年ごとに商品改定(主に値上げ)を繰り返してきているため、オーナーさんが既存の比較的安い火災保険を業務用に切り変える場合など、上記の目安を超える保険料の上昇になることもあり得ます
森下所長
菓子製造販売を本格的に始める前に、入居者さんだけでなくオーナーさんも保険の見直しについて考えておく必要がありますね
水谷力さん
その通りです。
補足ですが、入居者さんの方は万が一の食中毒に備えて「生産物賠償責任保険」も検討すると更に安心できると思います
今回の実現度は・・・?
きなこ助手
ふう、今回はなかなかの長丁場研究でしたわね。
ここまでですでに歴代のどの研究レポートよりも長いですわ!
森下所長
きなこはいろいろな場所に移動して大変だったね。お疲れさま。
きなこ助手
しかし今回の企画実現ハードルはなかなか高そうですわね
森下所長
そうだね、まず建築基準法の面から考えると、用途地域をほかの企画よりも慎重に検討する必要がありそうだ
きなこ助手
建築基準法の問題をクリアできても、食品衛生法の問題が立ち塞がりますわね。
特に、シンクやトイレが営業用にしか使えないというのは考えたこともありませんでしたわ!
森下所長
これについては、既存のマンション1室をリフォームするのはかなり難しそうだね。仮に1LDKのリビング部分を利用して、既存のシンク(キッチン)やトイレ・洗面所がある「製造場所」として営業許可を取ったとしても、残る居室にもキッチンやトイレがないと生活ができないことになってしまう
既存のマンション1室の例
きなこ助手
それなら、居室に追加でキッチンと洗面台とトイレをブチ込んでしまえばよろしいのではなくて?
既存のバスタブと合わせれば「住宅」や「共同住宅」に必要な三点セットも揃いますわよ!
森下所長
普通、居室部分に給水管や配水管は引かれていないからなぁ。部屋全体をフルリノベーションするなら合わせて設置できそうだけど、果たしてその部屋は住みやすいだろうか・・・?
菓子製造販売の許可が取れるようリフォームするとこうなる
きなこ助手
むむ・・・確かに・・・。室内にはベッドを置いたりする必要もありますものね。せっかくの1LDKが狭小ワンルームのような住み心地になってしまいますわ!
森下所長
ただ、たとえば戸建て住宅とか、さっきも話題になった1階が店舗で2階が住宅の建物、そして新築のコンセプト賃貸としての企画としてなら、検討する価値はあると思う
きなこ助手
それでは本日の実現度は・・・・・・45%ですわ!!
森下所長
きなこ助手
50%は切りつつ、30%というほど低くはない・・・。そんな微妙な乙女心ですわ
森下所長
ただ、この「ワクワク賃貸」でも、「お菓子の製造販売ができる賃貸住宅に住みたい」というリクエストはとても多いそうなんだ。いろいろなハードルさえクリアできれば、一気に超人気物件になるポテンシャルを秘めていると思う
きなこ助手
ほかにない唯一無二の賃貸住宅になり得ますわね! そうと決まれば、不動産屋らしく良い感じの土地を仕込むため、いざ出発!!
森下所長
うわぁ、また電波が・・途・・・・・切・・・・・・・RRRRRRRR・・・・・・(ブツッ)
きなこ助手
研究協力
水谷力
リスクマネジメントサービス 代表
RMS社会保険労務士事務所 代表
社会保険労務士/1級ファイナンシャル・プランニング技能士 代表
大手保険会社在職中にFP資格を取得。現在はFP・社会保険労務士としてコンサルティング・執筆活動などを行っている。
著書に「違いを生み出すファーストアプローチ」「違いを生み出す生損保リスクチェック」がある。
連絡先:mizutani@sanjyo.org
文:森下智樹
イラスト:みのもけいこ
企画・監修:伊部尚子 久保田大介
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森下 智樹
永幸不動産株式会社・代表取締役
賃貸管理・仲介と売買仲介をメインに、一都三県を股に掛けて活動する不動産会社の代表。
会社は免許番号(10)とそれなりに古いが、既成概念にとらわれずになんでもやってみる姿勢を大切にしている。
その仕事は月極駐車場の草むしり&除草剤散布から都心の土地売買まで多岐にわたる。
2018年より宅地建物取引士資格制度における登録実務講習講師としてデビュー。
-ワクワク賃貸研究所, 菓子工房賃貸推進プロジェクト
-菓子製造