菓子工房付き住居をつくるとき留意すべきトイレとキッチン問題
「ワクワク賃貸」では「アトリエ賃貸推進プロジェクト」という連載をしていますが、自前のアトリエを持ちたいという方は「住宅とアトリエは別々がいい」派と「住宅とアトリエは一緒がいい」派とに分かれます。
“別々派”の方は「住宅と一緒だとメリハリがつかない」、「緊張感が失せる」、「家族のことがどうしても気になる」などと言われ、“一緒派”の方は「移動時間がもったいない」、「いつでも思いついたときに創作できるのがいい」などを理由に挙げられます。 「自前の菓子工房を持ちたい!」と考えておられる方もこれは同じで、「住居と菓子工房は別々の場所がいい」という方と「菓子工房が付いている住居に暮らしたい」という方の2つに分かれるようです。
では実際に自前の菓子工房を構えようとするとき、「菓子工房単体」と、「菓子工房兼住居」とでどちらが難しいかというと、圧倒的に「菓子工房兼住居」だと思います。
理由はいくつもありますが、その筆頭は「トイレとキッチン問題」でしょう。
今回はこの点に焦点を当てて、お話したいと思います。
菓子工房付き住居にトイレは2つ必要?
はじめにトイレについて取り上げます。
実は私、「菓子工房賃貸推進プロジェクト」の連載を開始した当初は、「菓子工房付き住居には菓子工房スペースと居住スペースそれぞれにトイレが絶対必要」だと思っていました。
「菓子工房にあるトイレを、家族が使ってはいけません」という保健所の方からの指導を、「トイレは菓子工房と住居それぞれに設けなければいけない」というように受け止めていたのです。
しかし調べているうちに、必ずしもそうではないことがわかりました。
つまり、菓子工房スペースにトイレをつくるのであれば、住居スペースにもトイレが必要ですが、菓子工房にトイレを必ずつくらなければならないわけではなく、菓子製造をする方が居住スペースのトイレを使ってもよいとする地方自治体がほとんどだったのです。
Vol.009の記事でご紹介した、菓子工房付き住居の新築プランを例にとってご説明します(※編集部注:2023年5月時点で、この新築計画はまだ進んでいません)。 この新築プランは東京都江戸川区内で計画されている案件ですが、ここでは菓子工房全体を壁で区切り、トイレは菓子工房の中に設けていません。「お菓子をつくっているときトイレをしたくなったら、住居スペースのトイレを利用すればよい」と江戸川区の保健所では言われているそうです。
そして菓子工房内にトイレをつくるときは前室が必要でしたが、住居スペースにあるトイレに前室を設ける必要はありません。
ただし、菓子製造をする方も使うトイレには、トイレタンク以外の手洗いが必要となるので、この点はご注意ください。
もうひとつ、「小商い賃貸推進プロジェクト」Vol.002でご紹介した「vita passo 楓の樹」(東京都練馬区)は、菓子工房として利用することも可能ですが、こちらも間取図下側の店舗・作業場スペースとキッチンから先の居住スペースとの間に壁をしっかりつくれば、トイレを店舗・作業場スペース=菓子工房につくる必要がないと練馬区の保健所から言われているそうです。
そして、「vita passo 楓の樹」の場合、同じオーナーが所有する隣接物件「欅の音terrace」に共用トイレがあるのですが、それを使うことで、住居スペースのトイレを使わなくてよいとも言われているとのことです。
同じく「小商い賃貸推進プロジェクト」Vol.004でご紹介した「SMI:RE YOYOGI(スマイルヨヨギ)」(東京都渋谷区)でも菓子工房として利用している方がおられましたが、こちらでも敷地内にある共用トイレを使うことで菓子工房にトイレを設けなくて済んでいました。この方法はとても有効だと思います。
以上のように共用トイレを設ければ、菓子工房内に菓子製造者のための専用トイレをつくらなくても大丈夫なことがわかりましたが、家族とともに暮らす住宅内に菓子工房をつくるとき、家族用とは別に菓子製造者のための専用トイレをつくるよう指導している地方自治体もあります(最近の例では、渋谷区の保健所でそのように指導されました)。
Vol.010でも書きましたが、施設基準が地方自治体によって異なるのは大変厄介です。厚生労働省が省令で定めた参酌基準に寄っていく方向だとのことですが、まだ時間がかかりそうですので、この点については、菓子工房をつくる際、当該地を管轄する保健所にて十分確認をしてください。
キッチンは2つ必要
一方、キッチンは菓子工房スペースと居住スペースに1つずつ必ず設けなくてはなりません。
食の安全を確保するために、菓子工房にあるキッチンで自分や家族の食事をつくってはいけないという規定があるのです。菓子製造をしない人が、菓子工房にあるキッチンを使ってはいけない、というように言い換えることもできます。
菓子工房、住居それぞれに設置するキッチンにサイズの規定はなく、写真のようなミニキッチンでもOKです。
ただ、以前、「保健所の現地検査のときのためだけに簡易なものをつけ、検査が終わったら取り払います」という方がおられて、私は不快に思いました。そういう考え方をする人に食べ物を扱う商売をしてほしくないなと思っています。
キッチンについては、もう1点、お伝えしたいことがあります。
菓子製造のためのキッチンのシンクは一槽でよいか、二槽必要かという点です。
厚生労働省が定めた営業施設の参酌基準で、菓子製造の場合は二槽にしなければならないとはなっていないのですが、二槽式を強く推奨している地方自治体があります。ひとつは食材を洗うためのシンク、もうひとつは調理道具等を洗うためのシンクです。
現時点では理由がよくわからないのですが、生菓子をつくる場合や、カフェを併設する場合などはそのように指導される可能性があるようです。
東京都は一律、一槽でよいと受け止めていたのですが、最近、「二槽式でないと許可は出せません」と言われた区がありました。
ただ、「二槽式でないとダメ」と言われた地方自治体でも、調理器具等は食器洗浄機で洗うことを条件に許可してくれたケースもあります。
地方自治体によって施設基準が異なるのは本当に困ってしまうけれど(穿った見方ではありますが、時々、担当者によって異なるのでは?と思ってしまうこともあります)、現実を嘆いていても仕方がないので、しっかり保健所に確認していただきたいです。
まとめ
以上をまとめると、次のようになります。
1)菓子工房付き住居をつくる際、トイレは1つでよいが、手洗いはトイレタンク以外に必要。
ただし家族が利用するトイレと、菓子製造者が利用するトイレとは分けるよう指導している地方自治体もあることに注意。
2)キッチンは菓子工房と住居にそれぞれ1つずつ必要。ただしサイズの規定はない。
菓子工房に設置するキッチンは二槽式シンクが必要と保健所で言われる場合があるので要注意。
菓子工房をつくるとき、水回り関係の工事としては、上記のほか、菓子工房に手洗いを設置する必要があることにもご留意ください。
2つめのキッチンをつくるときは、給水管・排水管の引き込みを容易にするため、既存の水回りの近くに配置するようにしたり、ガス管工事を避けるためIHクッキングヒーターを利用したりするなど、工夫次第で工事代が安く抑えられるようになることも、念のためお伝えしておきます。
ファミリー用賃貸物件の1室を菓子工房にすれば、菓子工房付き住居が実現するわけですが、キッチン・トイレ問題を考えるとやはり容易なことではないので、私は菓子工房がついた賃貸住宅を増やしていきたいと思っています。
文:久保田大介