どんなアトリエを希望しているか?
アトリエ賃貸(=アトリエや工房がついた賃貸住宅)を増やす目的で連載している「アトリエ賃貸推進プロジェクト」では2021年10月にVol.005の記事で取材した美術家団体「JIAN」さんにご協力いただき、JIANに登録されている美術作家の方々へアトリエに関するアンケート調査を実施いたしました。
その調査結果を「現在のアトリエの実態」と「今後希望するアトリエ像」の前後編に分けてご報告いたします。
前編では美術作家の方たちが現在利用されているアトリエについてお伝えしました。後編ではどのようなアトリエを利用したいと考えておられるのか、ご紹介してまいります。調査結果を見て浮かんだアイディアも混じえてお伝えしますので、是非、前編・後編を通してお読みください。
[アンケート調査概要]
調査対象:JIANに加盟する美術作家764名
調査対象の平均年齢:32.8歳
実施時期:2021年10月3日~10月11日
調査方法:ウェブ調査
有効回答数:111名
回答者の平均年齢:33.6歳
[留意事項]
前編の冒頭でご回答くださった美術作家さんたちのことを簡単にご紹介いたしました。その際、制作ジャンルとして「立体」と「インスタレーション」を含む活動をされている方たちを「立体グループ」、「平面」と「映像」だけの方たちを「平面グループ」と分けて調査結果を報告させていただきましたが、それは今回もそのまま踏襲いたします。
立体と平面では創作環境が大きく異なるため、別々にお伝えしたほうがより実情に近い報告ができるのではないかと考えました。大雑把な分け方になってしまっていることをご容赦ください。
[今後希望するアトリエ像](1)利用したいアトリエのタイプ
まずは上の表からご覧ください。
こちらは前編の最後にご紹介した調査結果で、立体グループの72.0%、平面グループの62.3%の方がよりよいアトリエを新たに賃貸したい希望があることをお伝えしました。
今回のアンケート調査では、この設問で希望が「ある」とお答えくださった方たちに、どのようなアトリエを希望しておられるか、重ねてお訊ねしました。その結果をお伝えしてまいります。
前編で、現在は住居の一部をアトリエとして使っている方が立体グループで68.0%、平面グループで82.0%であることをお伝えしましたが、新たに賃貸する場合でも「アトリエ付き住居」を希望している方が立体グループで40.5%、平面グループで52.6%と最も多くなっています。
アトリエと住居が一体となっている利点として、移動時間がなく、いつでも制作に取り組め、なおかつ家賃が別にかからないことを挙げた方が多かったと報告しましたが、それはここでも同様のようです。
しかし、その割合は大幅に減っていて、平面グループでは「アトリエ専用スペース」に、立体グループでは「シェアアトリエ」に大きくシフトしています。
今はアトリエと住居が一体だけれども、本来別のほうがいいと考えておられる方が一定数おられ、平面グループの方たちはアトリエが比較的つくりやすいから「アトリエ専用スペース」へ、立体グループの方たちは必要となる設備が多く、音の点など課題も多いので「シェアアトリエ」へ流れているのだと思います。
「シェアアトリエ」は平面グループの方たちも15.8%が希望されていて、全体では22.7%で次点という結果になっています。
実はアンケート調査で「シェアアトリエ」は「自分でつくりたい」と「既存のシェアアトリエに加わりたい」と選択肢を分けていたのですが、ほとんどの方(立体グループでは11人中9人、平面グループでは6人中5人)が「自分でつくりたい」を選んでおられました。
シェアアトリエをつくるという過程までも楽しみたかったり、運営事業者が定めたルールを押し付けられるのではなく自分たちで決めたいと考えておられたり、理由はさまざまだと思いますが、この点も美術作家さんらしいご回答だと思います。
[今後希望するアトリエ像](2)希望するアトリエの広さ
続いて、希望するアトリエの広さについて伺いました。
現在利用しているアトリエスペースの設問と同じく、「10㎡未満」、「10㎡以上20㎡未満」、「20㎡以上30㎡未満」、「30㎡以上50㎡未満」、「50㎡以上」という括りにしお訊ねしたところ、立体グループでは「20㎡以上30㎡未満」、平面グループでは「10㎡以上20㎡未満」が最多となりました。
前編で現在のアトリエが「10㎡未満」とお答えになった方が立体グループで38.0%、平面グループで52.5%おられましたが、そのうちのかなりの方は「10㎡以上20㎡未満」あれば、ある程度満足されるようです。
不動産業界では1畳を1.62㎡で計算しているので、「10㎡以上20㎡未満」とはおおよそ「6畳以上12畳未満」ということになります。もう少し細かく質問を重ねないとはっきりとしたことは言えませんが、イメージ的には8畳から10畳程度あればよいと考えておられる方が多いような気がします。これは単身者向けであれば2Kの部屋を広いアトリエスペースと小さな寝室に、ファミリー向けであれば3LDKを1室広めの洋室と寝室のある2LDKに、という具合にすれば実現できる広さです。アトリエ賃貸として、このリノベーションは「あり」かもしれません(天井高の確保や搬出入のしやすさという課題は残りますが・・・)。
もうひとつ、立体グループの約3割が30㎡以上のアトリエを求めているという点も特記しておきたいと思います。20㎡以上の括りにすると7割となり、立体グループのアトリエにはどうしても広さの確保が必要だということです。
[今後希望するアトリエ像](3)希望するアトリエのエリア
希望するアトリエのエリアについても伺いました。
JIANのアンケート調査を依頼した美術作家のうち69%の方が東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県にお住まいなので、当然、この4都県を希望される方の割合が多くなります。
ただ、立体グループで東京都に実際に住んでおられる方の割合が40.0%だったのですが、「希望」となると62.2%となるので、かなりのギャップがあります(平面グループは東京都に実際に住んでおられた方が39.3%だったので、ほとんど変わりません)。前の設問で立体グループの方たちは広さを必要としていることがわかりましたが、それを東京都内で実現しようとすると、家賃がかなり高くなってしまいそうです。
この調査結果で着目したいのは「特になし」と回答された方が立体グループで13.5%、平面グループで21.1%もおられたことです。エリアよりも広さや設備などの諸条件を優先している方が多いことも読み取れます。
[今後希望するアトリエ像](4)アトリエにかけられる賃料
最後に「アトリエにかけられる賃料」を伺いました。
「5万円未満」、「5万円以上10万円未満」、「10万円以上」という大きな括り方ですが、傾向ははっきりと表れています。
平面グループの特徴としては76.3%の方が「5万円未満」と回答されていることが挙げられます。立体グループも「5万円未満」は45.9%とで最多となっていますが、「5万円以上10万円未満」も40.5%とそれに並ぶぐらい多くなっています。
立体グループの方は「東京都内」で、なおかつ広さを求めているので、家賃は少々高くなるだろうと現実的に受け止められているのでしょう。
いずれにしても「5万円未満」と回答された方が全体でも61.3%と多いことには変わりありません。平面グループであれば「アトリエ専用スペース」となるとやや厳しいかもしれませんが、「アトリエ付き住居」であれば可能な範囲(住居部分の家賃は加算されるだろうと想定してのことです)。
しかし立体グループで「5万円未満」となると「シェアアトリエ」が現実的なのだろうと思います。
エリアと賃料を合わせて考えると、「シェアアトリエ」というのは両方を実現することができるので、注目に値します。
たとえば築古で4LDKぐらいの一戸建てを15万円以内で借りて、LDKともう1部屋をくっつけてシェアアトリエにし、残り3部屋を3人の個室とすれば、一人あたりの家賃は5万円以内とすることができます。
「自分でシェアアトリエをつくりたい」と考えておられた方がいたことも多かったので、これも今後のアトリエ賃貸を企画していくうえで、有効な方法だと思います。
[今後希望するアトリエ像](5)アトリエに望む条件
アンケート調査結果の分析と、それに基づくアイディアのご紹介は以上となります。
この結果はアトリエ・工房をお探しの皆様の現状や希望と近いものだったでしょうか?
ご回答くださった美術作家の方たちの居住エリアは首都圏に集中していたので、それ以外の地域ではまた違った答えが出てくるのだと思います。ですので、実際にアトリエ賃貸を企画する際は、当該エリアでしっかり調査を行う必要があると考えています。
さて後編のエンディングでは、自由筆記でご回答いただいた「アトリエに望む条件」をご紹介したいと思います。立体グループ、平面グループそれぞれでご記入くださったものをほぼ全て列記します。
今後、アトリエ賃貸を増やす活動を続けていくうえで、心に留めておきたいと思っています。
ご協力くださった美術作家の皆様、どうもありがとうございました。
【調査協力】
[一般社団法人JIAN]
2016年に設立された美術作家団体。JIANはJapanese Independent Artist’s Networkの 各頭文字をとったもの。代表理事はアート・ディレクターの小路浩氏。アーティストやアート関連事業者、教育機関、行政、地域団体などと公益型のネットワークを結び、次代を担うファインアーティストたちの成長を応援する活動を行っている(支援するジャンルは美術・音楽・映像・身体芸術など多岐に渡る)。
2019年9月、「KONOYO Studio」(東京都豊島区東長崎)に拠点を移す。主な事業は美術展「KENZAN」、「IAG AWARDS」など。
文:久保田大介