《 コレクティブハウスの暮らし 》Vol.006

コレクティブハウスでは、なんと呼び合う?

投稿日:2021年6月14日 更新日:

皆さん、こんにちは。コレクティブ研究家の久保有美です。
私はコレクティブな暮らし方=「つながり、ともに働く、フラットな関係」という暮らし方について日々考え活動しています。

以前のコラムで、コレクティブハウスで暮らす居住者さんたちのことを“家族でもない、友だちだったわけでもない、同僚なわけでもない、でも知人なんて遠慮がちな関係でもない、なんだか安心できる関係”と表現しました。
友だちではないので、ニックネームで全員呼ぶわけではありません。でも家族で住んでいる人たちは呼び分けないといけない。そうなると何かしらの“法則”みたいなものが生じてきます。それはどういったものなのでしょか?

今回はコレクティブハウス内で居住者さん同士がどのように名前を呼び合っているか、その呼び方から私が感じていることをお伝えしたいと思います。

コレクティブハウスの居住者は単身世帯とファミリー世帯に分けられます。
ファミリー世帯は、当然のことながら全員同じ名字(ファミリーネーム)です。
しかし、コレクティブハウスでの暮らしは、世帯という考えはほとんどなく、個人を基本単位として考えています。つまり、掃除当番や水やり当番という暮らしの中の役割で、個人単位で当番を回し、コモンミールも同様に個人単位です。
ですので、基本的に同じ名字の方は下の名前(ファーストネーム)で呼びます。「〇〇(名字)さんのご主人」とか、「☆☆ちゃんのママ」といういわゆる一般的な三人称での呼び方を決してしません。

英語圏では知り合いに対してファーストネームで呼び合うほうが一般的なようですね。ファーストネームで呼ばない(ファミリーネームで呼ぶ)と、親近感を抱くことができない、距離を感じる、という文化のようです。

日本ではあまり馴染みのない文化ですが、最近はコミュニケーションを良好にするためにファーストネーム呼びを制度として導入している会社もあるようです。導入している会社では、ファーストネーム呼びについて「最初は違和感がある」という感想もあるようですが、コレクティブハウスでは、違和感を覚えている暇はありません。毎日の暮らしの中で、単身世帯もファミリー世帯も関係なく、個人として接する機会・呼ぶ機会しかないからです。

そしてコレクティブハウスの暮らしでは、親近感やコミュニケーションツールとしてファミリー世帯のファーストネーム呼びをしているわけではありません。
個人を尊重している・個人を特定する意味合いとしてファーストネームで呼んでいるだけです。男女という性別も、子どもか高齢かという年齢も関係なく、それぞれの呼び方をしています。

女性同士だと、友人関係の中でファーストネーム呼びに慣れている人も多いイメージですが、男性同士の場合、ファーストネーム呼びは本当に親しい友人や親族ぐらいかもしれません。しかし、コレクティブハウスで暮らすと、親しいかどうかという判断ではなく、個人を特定するために必要なので、男性同士でもファーストネームで呼び合います。

そして、単身者はファミリーネーム呼びが多いです。ただし、あだ名がある、その人が呼んでほしいニックネームがある、という時はその希望を伝えることもあります。

単身者でも同じファミリーネームの方が入居することももちろん想定されますので、そのときはファーストネームで呼ぶことになると思います。もし同姓同名の方が入居することになれば、ニックネームを付けるか呼び分けをどうするか、その時に本人の希望を尊重して検討することになると思います。

私は、「久保有美」という名前ですが、ハウスに「大久保」さんという名字の方がいらっしゃり、似ているので紛らわしいなと思っている人は「有美さん」と呼んでくれる人もいらっしゃいます。もちろん、私のあだ名である「久保ちゃん」と呼んでくれる人もいらっしゃいます。私はその人が呼びやすい形で呼んでくださればいいと考えているので、何と呼んでくださっても問題はありません。

私自身、友人をあだ名やファーストネームで呼ぶことはありますが、親しい知人レベルであれば、ファミリーネーム呼びです。ましてや仕事のお付き合いのある人のことをファーストネーム呼びすることはほとんどなかったです。
でも、コレクティブハウスに住むことで、ファーストネーム呼びになれ、同時に「目の前の人を個人として尊重する」ということを、呼び方から考えるようになりました。

また、前述の「〇〇(名字)さんのご主人」とか、「☆☆ちゃんのママ」といういわゆる一般的な三人称での呼び方について、コレクティブハウスで暮らしていくうちに、2つの違和感を覚えるようになったのです。

1つは、「☆☆ちゃんのママ」という呼び方に、その人の個人を尊重するという観点・配慮がないなと感じ始めたこと。
2つ目は、ご主人や奥さんという、日本古来の家制度や考え方からくる呼び方に嫌気がさしたこと。
使用している言葉の意味を知ると使いたくないなと感じるようになりました。また、共働き世帯が増え、個人としての活躍が重要になる現代において、その呼び方はマッチしていないな、と思ってしまったのです。

なので、最近はニックネームをお聞きしたり、直接は存じ上げない配偶者のことを指したりする時は「〇〇さんのパートナーさん」と意識して呼ぶようになりました。

コレクティブハウスで暮らすことがなければ、人の呼び方について違和感を覚えることも、言葉の意味を調べることもなかったかもしれません。暮らしの中からいろいろな気づきを与えてくれる貴重な環境です。

同じマンション(建物)や地域に住んでいる人たちのことを「ご近所さん」「お隣さん」というように名前すら意識することなく生活している方がほとんどだと思います。コレクティブハウスは、呼び方から関わり方の仕組みがある暮らし。簡単に実行できないこと(ファーストネーム呼びや家事の共有等)も仕組みがあるからこそ実行しやすいという側面があります。仕組みから入る暮らしはおすすめです。

文:久保有美

  • この記事を書いた人
久保 有美

久保 有美

不動産フリーエージェント。京都出身(京都いうても西の方) 好きな数字:3&9 宅地建物取引士 社会福祉士 賃貸不動産経営管理士 大学でコレクティブハウスという暮らし方に出会う。京都でコレクティブをやりたいと言い続け、建築会社・不動産コンサルティング会社を経て2021年に独立。 新たな暮らし方の提案、福祉と不動産の連携を目指す。

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