2019年4月。とある不動産セミナーで片桐健太郎さん(仮名)というオーナーと出会いました。
名刺交換をしましたら、開口一番、
「『ワクワク賃貸®』読ませてもらってます!」
とおっしゃってくださったのが嬉しくて、これまで紹介した物件の話などをしていると、片桐オーナーは
「僕の物件もなかなか面白いですよ~」
と言われます。
「へぇっ、どんな物件なんですか?」
そうお訊ねしたら、ビックリするようなことを言われました。
「北千住にある築90年の平屋住宅を入居者さんがセルフリノベーションをしたのですが、何と地下収納もつくってしまったんですよ」
「地下収納ですか?!」
思わず大声で聞き返すと、
「はい。僕も入居者さんと一緒に穴掘りをしたんです」
とニコニコ笑って言われます。
「完成後はそこでイベントをされたりして、暮らし方もユニークで素敵だと思います」
と続けられたものだから興奮してしまい、その場で入居者インタビューの取材を申し込みました。
それが今回ご紹介する「KiKi千住東(あずま)の家」に住むおふたりです。
さっそくご紹介いたしましょう。
高木正太郎(たかぎまさたろう)さん(会社員)
木皿千智(きさらちさと)さんフリーランサー)
(玄関に入ってすぐ、小上がりの和室の下に広い空間があるのを目にして)お会いして早々にすみません。これが片桐オーナーの話しておられた地下収納ですか?
正太郎さん
(笑いながら)そうです。
千智さん
今はストーブとか、普段使わないものをしまってますのでお見苦しいですが、構わなければ好きなだけご覧ください(笑)。
片桐オーナーからお話を伺ってイメージを膨らませてましたが、想像以上に広いし、深いです。
正太郎さん
小上がりの和室は畳2帖と板の間の広さがありますが、その下をほとんど全部掘ってますからね。深さも1m近くあるんじゃないでしょうか。
千智さん
最初にお借りしたとき、水回りがあるだけで、天井と床は片桐さんが解体してくださっていました。床下が土だったので掘ることができたんです。
正太郎さん
僕の友人の建築士が一緒にプランをつくってくれたのですが、当初はもっと広い地下収納をつくるプランもあったんです。でも実際始めてみたら、和室の下だけでも大変な量の土でした。。。
大変な力作ですね。和室の下だけでもすごいです。
千智さん
掘るだけでも苦労したんですけど、掘っている途中で地下から雨水が湧き出してきて慌てました。どんどん泥沼になってしまって・・・。
正太郎さん
必死で泥を汲み出しました。あれにはビックリしましたね。
のっけから驚くような苦労談!
千智さん
だけど、おかげで地下から雨水が湧き出してくることがわかったから、モルタルで固めて、水の汲み取りポンプも設置することができました。
正太郎さん
入居してから水が出たら大変だったので、かえってよかったです(笑)
しかし素敵なお部屋ですね。入居されたときは水回りだけで、天井も床も解体されていたと先ほど言っておられましたが、完成までどれぐらいかかったのでしょうか?
千智さん
はじめは3カ月で完成させる予定だったのですけど、思いがけず工事内容が増えてしまって、結局7ヵ月近くかかりました(笑)。
片桐さんもお手伝いくださったとのことですが、3人でつくられたのですか?
正太郎さん
いえいえ。友人の建築士にはずっと見てもらっていましたし、電気工事、ガス工事、屋根工事は専門家にお願いして、自分たちだけでは困っていたところは大工さんが力を貸してくれました。そして、総勢50名ほどの友人たちにもたくさん手伝ってもらって、本当に自分たちだけでは完成できませんでした。
千智さん
このリノベーション企画を始めたとき、Facebookページを立ち上げたのですが、漆喰塗りや床張りなどはイベントとして友人たちに声をかけ、集まってもらいました。
正太郎さん
あと、僕の実家が温泉旅館をしているのですが、使わなくなったスリッパや食器、座布団などをもらい、彼女のお父さんはタイル職人なので、講師となって友人たちに教えながら貼ってくれました。
すみません。お訊きしていいかどうかわからなかったのですけど、おふたりは名字が違いますがご夫婦なのですか?
千智さん
はい。実は5月に入籍したばかりです。
それはおめでとうございます!
ではリノベーションをしているときはまだ結婚されていなくて、そのときから両家の親御さんたちが家づくりを手伝ってくださったということですね。
正太郎さん
そうなんです。
一緒に家をつくりながら、お互いの親が僕たちのことをよくわかってくださるようになりまして・・・。
完成したら結婚するのは自然のなりゆきみたいな感じになりました(笑)。
協働作業をしていたら、お互いのいろんなことがわかるでしょうから、一挙両得でしたね(笑)。
ところで、そもそも何でセルフリノベーションをして、自分たちの住まいをつくろうと思われたのですか?
正太郎さん
最初は普通に部屋探しをしていたのですが、自分たちの好みに合う家がなくて、それならリノベーションするしかないということになりました。
千智さん
それと私が今メインで仕事をしている会社はDIYのワークショップを主催しているのですけど、そこで仕事をする前からふたりで一緒にワークショップに参加していて、それもきっかけのひとつにはなりました。
正太郎さん
自分たちの家をイベントスペースにしたい、という希望もあったから、普通の賃貸住宅では難しいだろうとも思っていたんです。
この家の情報はどこで見つけたのですか?
千智さん
DIYができる物件を紹介してくれるサイト「DIYP」さんから紹介していただきました。
正太郎さん
家自体も気に入りましたが、イベントを開催するには人が集まりやすいところがいいと思っていたので、北千住から徒歩7分という立地もよかったです。
リノベーションを始めるにあたり、設計図などはつくったのでしょうか?
正太郎さん
いや、明確なものはつくらなかったです。
建築家の友人がプランニングの段階から加わってくれて、はじめにラフプランをいくつかつくってくれました。
あとは作業をしながら考えてつくっていった感じです。
余談ですが、「KiKi」という名前も考えてくれました。
「高木」と「木皿」で「木」の字が重なっているから「KiKi」。
あまり個性的すぎる名前でなく、さらっとしていてニュートラルな感じなのが気に入っています。
千智さん
作業しながら考えてつくっていたという意味では、たとえば屋根にトップライトをたくさんつけていますが、せっかく屋根工事をするのであれば、光を取り込めるようにしようかと考えました。
正太郎さん
ほかにも、平屋で外の見える所にしか洗濯物を干せないので、浴室をトップライトにして、サンルームみたいな感じにようと思いました。
千智さん
最後に手を加えたのが押入部分で、イベントをすることを考えたら、座れる場所は多いほうがいいし、奥行きがあることで広くもなるので、本棚と座れるスペースをつくりました。
イベントのほうも始めておられるようですね。
正太郎さん
はい、少しずつやっています。
たとえば友人の和菓子職人と一緒にやっている「夜の甘味処」というイベントがあります。その場でつくった、出来立ての和菓子を食べていただこうという企画です。
千智さん
そのほかにも自分たちが好きな服の販売会など、自分たちがしている暮らし、モノ、人の紹介や提案をしていくメディアのようなイベントに力を入れてやっていきたいと思っています。
最後にこれからDIYでセルフリノベーションをしたいという方たちに何かメッセージをいただけますか?
千智さん
セルフリノベーションは何しろ大変だったので、まだ「美しい思い出」にはなっていないんです(笑)。
だけど、ものづくりへのハードルが下がったので、何でも自分でやってみようという気持ちになれましたし、やってみて最後は何とかなったので、生きることへの自信につながったような気がします。
正太郎さん
床下や屋根は最初はあまり手を出さない方がいいと思います。DIYでやるには少しハードルの高い領域だと思います。
それと自分たちでできないことは専門家に頼んだほうがいいです。大きな事故になってはいけないですから。
あと、オーナーがDIYに慣れている物件がいいですね。
僕たちの場合、片桐オーナーが技術面でサポートしてくださるほど知識があったのがよかったですし、賃貸借契約を結ぶときもDIY物件特有の約束事があると思うので、オーナーの理解はとても重要です。
おふたりがオーナーや仲間たちと一緒に、この家をどんなふうに育てていかれるか、とても楽しみです!
本日はどうもありがとうございました。
取材・執筆:久保田大介
撮影:みのもけいこ