《 菓子工房賃貸推進プロジェクト 》Vol.018

“住まいと一体となった菓子工房”&“テイクアウト用窓がついた菓子工房”の2タイプ4室から成る菓子工房ハウス「style sancha」が三軒茶屋に誕生!

投稿日:2023年11月6日 更新日:

一棟丸ごと菓子工房という新築物件がついに登場

昨年(2022年)7月に本連載を開始して1年余り。
力及ばず、ここまで私が親しくお付き合いしているオーナーさん以外の方に菓子工房づくりを理解してもらえないできてしまいましたが、世間では菓子工房のニーズの強さや大切さに着目してくださるオーナーが少しずつ増えてきたようです。
そしてとうとう、一棟丸ごと菓子工房という、夢のような新築物件をつくるオーナーと出会うことができました。
オーナーは橋本達明さんといい、今年(2023年)9月半ば、「三軒茶屋で菓子工房ハウスを新築しているのですが、入居者募集を手伝ってもらえないでしょうか?」という連絡を頂戴しました。
菓子工房をつくってくださるオーナーは言わば“同志”ですので、そのご依頼はもちろん快諾。
橋本オーナーが新築された菓子工房ハウスは「style sancha(スタイルサンチャ)」という名称で、ご相談をいただいた時点で、橋本オーナーが全4室中2室の入居を自力で決めておられました。
そこで残る2室が募集中であることを空き待ち登録者さんたちにお伝えしたところ、これまで7名の方が内見に行かれ、そのうちお一人が契約を完了しました。
そして10月6日の完成を待って私も取材させていただき、菓子工房として非常に参考になる工夫が随所に見られたので、当コーナーでもご紹介することにいたしました。
「style sancha」にはテイクアウト用窓がついた菓子工房と、住まいと一体となった菓子工房という2つのタイプがあるので、まずは前者からご案内したいと思います。

テイクアウト用窓がついた菓子工房

1階にはテイクアウト用の窓がついた菓子工房が2室ある。

「style sancha」の1階にはテイクアウト用の窓がついた菓子工房が2室あります。
ここではそのうち1A号室をご紹介します。
テイクアウト用の窓は、ただお菓子の受け渡しができるだけでなく、足元近くまでガラスになっているから、下半分の前にショーケースを置けば、お客様にお菓子をその場で選んで買ってもらうことができます。
お客様が工房内に入ることはないため、店舗スペースと菓子製造スペースとを壁等で区画分けする必要がありません。とても合理的な窓だなと感心しました。

1A号室の間取図。

こちらは1A号室の間取図です。
右下の引違い窓がテイクアウトのために使える窓です。
三角形の敷地に建てられているため、建物はやや変形ですが、一番余白の大きい部分にテイクアウト用窓があるので、菓子製造の障害にはなりそうもありません。

1A号室の入り口。玄関扉から入ってすぐ横に洗面台がある。

玄関扉を開けてすぐ左(写真では右)には洗面台があります。
菓子工房にはキッチンシンクとは別に手洗い用の洗面台が必要ですが、中に入ってすぐの場所に洗面台があるのはとても便利。ここにも橋本オーナーの合理的な物の考え方が見てとれます。水栓はもちろんシングルレバーになっています。

キッチンは2槽式のシンクとガステーブルが少し離れて設置されている。

キッチンはシンクとガステーブルが少し離れて設置されています。
作業台は自分の使いやすいものを持ち込んでもらう方式で、キッチンやガステーブルと同じ奥行きにしてもいいし、大きなものを置いてもいい。いろいろなバリエーションに対応できるよう、切り離しているところが本当に合理的で素晴らしいです。
なおシンクは2槽式になっているので、菓子以外のものの製造許可を得たいという方も相談に乗っていただけるとのことでした。

オーブンは三相200V、100Vいずれも設置可能

オーブンを設置するだろうスペースの壁面には三相200Vのコンセントもついていて、入居者さんが200V、100Vいずれのオーブンを持ち込んでこられても対応できるようになっています。
フード付き換気扇があるので業務用オーブンもOK。

 

そして私が一番勉強になったのは、排水溝が随所に設けられていることです。
冷凍冷蔵庫やコールドテーブル、スチームコンベクションオーブン(スチコン)から出る水を直接に流し込めるよう、設置が想定される場所に排水溝が設けられていて、そのサービス精神にビックリ。排水溝を使わないときは蓋ができるようにもなっています。こまやかですね。

シャワートイレと前室

トイレには小さな手洗いが設置されていて、前室もきちんとあります。
その他、保健所から営業許可基準はしっかりと満たしていて、冷蔵庫やオーブン、作業台を持ち込めばすぐに営業が許可され、開業することができます。
自己負担で菓子工房をつくることを考えたら、本当にありがたい話です。

住まいと一体となった菓子工房

2B号室の間取図。下は2階、上は3階のもの

つづいて住まいと一体となったタイプの菓子工房をご紹介しましょう。
ここでは2B号室を取り上げます。
まず上の間取図をご覧ください。
このタイプは2階が菓子工房、3階が住居となっていることがわかります。

2B号室の菓子工房。

こちらは2B号室の菓子工房です。
住まい一体型タイプの菓子工房も冷蔵庫、レンジ、作業台などを持ち込むだけで開業できるようになっていて、三相200Vのコンセントや排水溝があるのは1階と同じです。

2B号室・菓子工房の洗面台。

手洗い用の洗面台はキッチンシンクの隣にあります。

トイレと前室。狭いスペースを有効に活用している。

トイレと前室は、キッチンの背面にある狭いスペースを有効に活用してつくられています。
トイレに関しては、菓子工房用と住居用とを分けるよう指導している行政区があり、さらに厳しいところでは、生活のために使うトイレは菓子工房の中にあってはいけないと言われることがありますが、「style sancha」のある東京都世田谷区は今回の間取りでOKと言われているそうです。

3階の居住スペース。

3階は居住スペースになっています。
2B号室の3階は16.45㎡で天井の一部が建築基準法上の斜線制限の影響で斜めになっているから、家族のいる方ですと少々窮屈だと思いますが、捉え方によってはオシャレでもあり、一人暮らしであれば「問題なし」と考えられる方が多そうです。

3階にある生活用キッチンと洗濯機置き場。

居住スペースと菓子工房が一体となった住宅では、菓子製造用と生活用とでキッチンを分ける必要があります。
「style sancha」はこの基準もしっかりと満たしていて、3階の居住スペースにはコンパクトではありますが、きちんとキッチンが設置されています。

3階にあるシャワールーム

浴室は浴槽がなく、シャワールームのみとなっています。
水回りを最小限にとどめることで、生活空間を少しでも広くしようという考えで、ここからも橋本オーナーの合理的な考え方がうかがえます。

居住スペースの収納とバルコニー

収納スペースもコンパクトで、持ち物が多い方はこの点が不服かも。しかし住まいと菓子工房が一体となった部屋で暮らすために、思い切って断捨離を決行していただきたいと思います。
住まいと菓子工房が一体となったタイプのお部屋には3階にバルコニーもついています。洗濯機置き場が室内にあるので、このバルコニーで洗濯物を干してください。

マルシェ開催がOKなミニスペース

マルシェが開催できるミニスペース

ここまで橋本オーナーがつくった菓子工房ハウスの建物内についてご案内してまいりましたが、建物外=共用部にも大きな魅力があります。
上の写真は建物に向かって左側のスペースですが、ここは橋本オーナーが隣宅から借りている駐車スペースで、貸主さんは「マルシェを開催してもいい」と言ってくださっているそうです。

駐輪スペースもマルシェ利用可

そして建物右横には駐輪スペースがありますが、ここもマルシェとして利用することが可能です。
菓子工房が4室あるということは、菓子製造をする方が4人も集まっているということですから、コラボしない手はないと思います。
定期的であろうと不定期であろうと構わないので、橋本オーナーに相談のうえ、マルシェ開催を企画したら面白いでしょう。
コラボという点では、住まいと一体となった菓子工房でつくったお菓子を、テイクアウト用窓がある菓子工房で販売してあげるのも良いのではないかと勝手に妄想しました。
同じ志を持つ“仲間”同士、良好なコミュニティーをかたちづくっていけたら素晴らしいです。

立地&募集条件

「style sancha」は菓子工房として現時点ではこれ以上なかろうと思われるスペックを備えた素敵な物件ですが、立地が魅力的だということも忘れてはならないポイントです。
最寄り駅は東急世田谷線「西太子堂」駅(徒歩2分)ですが、東急田園都市線・世田谷線「三軒茶屋」駅までも歩いて6分で行けてしまう立地なのです。
「さんちゃ」の愛称で親しまれている人気の街の一角に「style sancha」はあるというわけで、活力のある商店街には素敵な飲食店もたくさんありますから、ここで暮らすのはもちろん、菓子工房に通うのも刺激があることでしょう。

一方、「さんちゃ」にあるので、家賃はさぞかし高いだろうと思っていたのですが、予想よりずっと安くて驚きました。
1階のテイクアウト用窓口がある菓子工房は121,000円(税込)、2・3階の住まいが一体となった菓子工房は149,000円(税込)という設定になっているのです(※2023年11月時点)。
私の感覚ではもう1~2万円高くても、借りたい方は大勢現れるだろうと思います。
そのほか敷金は3カ月で礼金は1カ月となっており、管理費・共益費はかかりません。
ご注意いただきたいのは、「style sancha」は2年間の定期借家契約になっていて、再契約は可能ですが、最初の2年間は解約できないというルールがある点です。菓子工房づくりのための初期投資は不要だけれど、気楽に始めてすぐに撤退するというのではダメ。
連帯保証人を立てたり、保証会社を利用したりする必要がないのは魅力ですが、これもしっかりとした事業プランを持っている人にご利用いただきたいという、橋本オーナーの意思表示だと思います。

「style sancha」をつくられた背景

橋本達明オーナー(2023年10月12日、「食スタイルLabo」にて撮影)

「style sancha」を取材してみて、テイクアウト用の窓があったり、三相200Vのコンセントや床の排水溝があったりなど、スペックの充実ぶりには驚かされました。
「なぜここまでつくり手に配慮して新築できるのだろう?」と不思議に思い、橋本オーナーに訊ねましたら、ご自身が運営しているシェアキッチン「食スタイルLabo」に案内してくださいました。
「食スタイルLabo」は東京都目黒区上目黒にある古民家を改装し、若手料理人や将来お店を出したい方の実践の場としてつくられたシェアキッチンで、イートインスペースがあることを特徴としています。
キッチンはただ惣菜やお菓子をつくるだけの方には貸してくださらず、近隣にも開かれたお店をやることを条件としておられます。

「食スタイルLabo」のイートインスペース。奥にキッチンがある。

曜日ごとにさまざまな利用者さんがお店を開かれるほか、毎週金曜日と土曜日は、複数の近所の作り手さんが作り置きおかず、得意料理、スイーツを自由に、そして多めに作り、お持ち帰り分以外を販売するシェアリングサービス「おすそわけDELI」が開催されています。

ラボキッチンは広くて、複数の人が同時に調理できる。

橋本オーナーは総合商社に勤め、長らく資材(タイヤ)を扱う部門で仕事をし、海外50カ国以上に出張するなどハードな日々を過ごしておられました。しかし人生の後半は国内の身近なところで「食」に関連する仕事をしたいと考え、社内ジョブリクエスト制度を使い、外食事業運営に関わる部署に異動されたそう。
そして50歳で早期退職し、服部栄養専門学校に入学し(!)、調理師免許を取得してから「食スタイルLabo」の運営を開始されました。
食を通じQOLの向上を応援することを事業目的としていて、「style sancha」もその目的に沿って新築したとのことで、レベルの高い菓子工房をつくれるのも納得です。
「食スタイルLabo」で毎週火曜日にイギリス菓子を製造販売しているEARLY BiRDS MORNING CLUB さんが、「style sancha」1B号室も借りてくださるなど、2つの拠点はリンクしていて、これからの事業の発展が実に楽しみです。

空き待ち登録を受け付けています

開業準備が進む1B号室

この記事の原稿を書いていた段階では、テイクアウト用窓がついた1A号室がまだ空いていましたが、配信直前に契約がまとまり、満室となりました。
結果的に、空き待ち登録いただいた方々以外にはご検討いただけず、少々心苦しく思っています。
今後も同様のケースは増えてきそうですので、登録がまだの方は是非手続きいただければと思います(※登録に費用はかかりません)。
「style sancha」に空きが出る場合にも(と言っても2年先の話になりますが・・・)、橋本オーナーから連絡をいただき次第、すぐにお知らせいたします。
それとは別に、「食スタイルLabo」を利用しながら菓子製造販売事業を始める手もあるのではないかと思いました。
「食スタイルLabo」で橋本オーナーとパイプをつくれたら、「style sancha」の空き情報もいち早くキャッチできると思いますので、一度「食スタイルLabo」にも足を運んでみていただけたらと思います。
「おすそわけDELI」が開かれる金曜日、土曜日は橋本オーナーも店頭に立って販売のお手伝いをしているそうなので、お会いできるチャンスです。

文:久保田大介

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久保田 大介

『ワクワク賃貸®』編集長。有限会社PM工房社・代表取締役。 個性的なコンセプトを持った賃貸物件の新築やリノベーションのコンサルティングを柱に事業を展開している。 2018年1月より本ウェブマガジンの発行を開始。 夢はオーナーさん、入居者さん、管理会社のスタッフさんたちがしあわせな気持ちで関わっていけるコンセプト賃貸を日本中にたくさん誕生させていくこと。

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