《 菓子製造許可が取れる賃貸住宅 》Vol.005

菓子工房と用途地域

投稿日:2022年10月24日 更新日:

菓子工房をつくれない地域がある

「自前の菓子工房を持ちたい!」という夢を抱き、その実現に向けて動き出すとき、保健所で菓子製造業の許可を得る必要があることは、ほとんどの方がご存知だと思います。
しかし、この企画を通して菓子工房を持ちたいと考えている人たちと出会い、お話を伺っているうちに、都市計画法及び建築基準法により菓子工房をつくることができない用途地域があることをご存知ない方が大勢いることがわかってきました。
このことを知らずに物件探しをされると、手痛い失敗をする可能性があります。
そこで今回は用途地域と用途制限のことをQ&A形式でできるだけわかりやすくご説明したいと思います。

Q1:そもそも「用途地域」とは何ですか?

A1:都市計画法では住居系8地域、商業系2地域、工業系3地域、合計13種類の用途地域が定められています。そして建築基準法では、その用途地域ごとに建築可能な建物用途が細かく定められています。

13種類の用途地域について詳しく説明することは控えますが、私たちが住んでいる街には用途地域というものが定められていて、住環境保護をメインに考えられているエリア、商業や工業の利便性を優先的に考えられているエリアがあるのだということだけ、ご理解ください。
自分の家など特定の場所がどの用途地域に指定されているかということは「◯◯市 用途地域」と入れてGoogle等で検索すると、用途地域マップが表示されるので、すぐに調べることができます。

Q2:菓子工房はどの「用途」に該当しますか?

A2:菓子工房と住宅がセットになっている場合、菓子工房と販売店舗がセットになっている場合、菓子工房のみの場合の3種類があって、それぞれに該当する用途があります。

はじめに東京都都市整備局がまとめている「用途地域による建築物の用途制限の概要」という表をご覧ください。
※下の表をクリックしていただくと、表だけ表示されるようになっています。

この表の中で「菓子工房と住宅がセットになっている場合」は「兼用住宅で、非住宅部分の床面積が、50㎡以下かつ建築物の延床面積の2分の1以下のもの」に属します。
「兼用住宅」というのは、一戸建てで建物の一部(通常は道路に面した1階部分)が店舗や事務所などになっている建物のことです。
兼用住宅で菓子工房をつくる場合、菓子工房の部分が「非住宅部分」に該当し、その床面積が50㎡を上回るもの、あるいは建物の延床面積(全体面積)の2分の1を超えるものは、用途地域のうえでは「住宅」とはみなされず、Q3の回答で述べる「店舗」や「作業場」としての用途制限を受けるようになります。

次に「菓子工房と販売店舗がセットになっている場合」は「店舗等」に属します。
本稿では「床面積が150㎡以下のもの」のみを取り上げて説明します(150㎡を超える工房を持ちたい方は少ないと思いますので)。

最後に「菓子工房のみの場合」は「工場・倉庫等」に属します。
本稿ではこのうち「パン屋、米屋、豆腐屋、菓子屋、洋服店、畳屋、建具屋、自転車店等で作業場の床面積が50㎡以下」に絞って説明をします。作業場=菓子工房の床面積を50㎡超としたい方は、「危険性や環境を悪化させるおそれが非常に少ない工場」となると思います。

Q3:菓子工房をつくってはいけない用途地域はどこですか?

A3:「兼用住宅で、非住宅部分の床面積が、50㎡以下かつ建築物の延床面積の2分の1以下のもの」、店舗で「床面積が150㎡以下のもの」、「パン屋、米屋、豆腐屋、菓子屋、洋服店、畳屋、建具屋、自転車店等で作業場の床面積が50㎡以下」がどの用途地域でつくれないか、個別に見ていきましょう。

先ほど掲げた「用途地域による建築物の用途制限の概要」のうち、菓子工房に関する用途のものだけ抜粋した表を作成しましたので、こちらをご覧ください。
※下の表をクリックしていただくと、表だけ表示されるようになっています。

この表をベースに、個別に解説いたします。

菓子工房と住宅がセットになっている場合

このケースでは「兼用住宅で、非住宅部分の床面積が、50㎡以下かつ建築物の延床面積の2分の1以下のもの」がどの用途地域でつくれないのか確認してください。
ちょっと驚かれるかもしれませんが、「工業専用地域」以外ではつくれることがわかります。
そうであれば、菓子工房と住宅が一体となっている戸建てをつくればいい(借りればいい)と考えた方も多いように思うけれど、これを探すのはなかなか大変です。
なぜかと言うと、このケースの場合、菓子工房と住宅部分それぞれにキッチンとトイレが必要になるからです(住宅部分には浴室も必要です)。
キッチンとトイレがすでに2つずつある賃貸戸建てはなかなかないので、2つずつつくることができる賃貸物件を探すことになりますが、それを認めてくださる大家さん、管理会社さんは非常に少ないです。
なおマンションやアパートなどの共同住宅に、店舗と住居がセットになっている区画(部屋)がある物件がありますが、その区画(部屋)は「兼用住宅」には該当せず、「店舗」または「住宅」を用途として建築確認を受けていることがほとんどですので、混同しないようにしてください。
そして共同住宅で「住宅」を用途としている区画(部屋)の全部または一部を菓子工房にする場合、菓子工房部分の床面積が200㎡未満であれば用途変更をしなくても済みますが、建築士さんにそれで問題がないか、念のため確認しておくことが大切です。
また、共同住宅の区画(部屋)を菓子工房兼住宅する場合は、一戸建ての「兼用住宅」と同様に、菓子工房部分と住居部分のそれぞれにキッチンとトイレが必要となることにご注意ください(例外はありますが、複雑なのでここでの説明は省略します)。

菓子工房と販売店舗がセットになっている場合

「菓子工房と販売店舗がセットになっている場合」は「店舗等」のうち「床面積が150㎡以下のもの」の項目をご覧ください。
備考欄に「①日用品販売店舗、喫茶店、理髪店、建具屋等のサービス兼用店舗のみ」とありますが、ケーキ屋さんや和菓子屋さんなど、菓子をつくって販売する店舗は①に属します。
つまり、菓子工房都販売店舗がセットになっている物件は、第一種低層住居専用地域以外ではつくることができるということです。
「な~んだ、第一種低層住居専用地域だけか」と思われた方が多いかもしれませんが、第一種低層住居専用地域に指定されるエリアはとても広いので、この壁にぶつかることが多いです。
また「2階以下」という制限が設けられている用途地域が多くあることにもご留意ください。該当する用途地域では3階以上の区画(部屋)を菓子工房兼店舗にすることは認められません(菓子工房のみの場合も同様です)。

菓子工房のみの場合

「菓子工房のみの場合」は「パン屋、米屋、豆腐屋、菓子屋、洋服店、畳屋、建具屋、自転車店等で作業場の床面積が50㎡以下」の項目を確認してください。
ここでも「菓子工房と販売店舗がセットになっている場合」と同様、第一種低層住居専用地域ではつくることができません。
ただし、「▲」マークがついている用途地域でも、制限は「2階以下であること」なので、販売店舗とセットになっている場合よりは緩やかです。
備考欄に「原動機の制限あり」とありますが、菓子工房の場合、ミキサーなどモーターを使う道具が「原動機」に該当します。ここで言う制限は「0.75kw以下」というものなので、大型の機械を入れない場合は大丈夫であることが多いですが、全ての原動機の合計が0.75kw以下なので、その点はご注意ください。

まとめ

用途地域と用途制限をご理解いただくのに、これだけは絶対に必要だろうと思う点だけ抜粋してご説明しましたが、いかがでしたでしょうか?

◯菓子工房と住宅がセットになっている物件(戸建て)を探す(つくる)場合は、用途地域の制限はあまり気にしなくても大丈夫だけれど、そうした物件は極めて少ないということ

◯販売店舗とセットの場合と菓子工房のみの場合は第一種低層住居専用地域ではつくれず、つくることができる用途地域でも「2階以下」などの制限がついている場合があること

自前の菓子工房をつくるためには、最低でもこの2点を把握して、物件探しに取り組んでいただきたいです。
菓子工房をつくってはいけない用途地域でつくってしまうと、あとで営業できなくなったり、大家さん、管理会社さんから賃貸借契約を解除される可能性があります。

文:久保田大介

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久保田 大介

『ワクワク賃貸®』編集長。有限会社PM工房社・代表取締役。 個性的なコンセプトを持った賃貸物件の新築やリノベーションのコンサルティングを柱に事業を展開している。 2018年1月より本ウェブマガジンの発行を開始。 夢はオーナーさん、入居者さん、管理会社のスタッフさんたちがしあわせな気持ちで関わっていけるコンセプト賃貸を日本中にたくさん誕生させていくこと。

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