この記事を書いている僕の仕事部屋はとても暗い。
元は約3.9畳大のウォークインクローゼットだったスペースなので、窓はひとつもない。
天井に20Wの薄暗い白熱球色の照明器具がついていて、机にアームスタンドをつけているが、明かりはそれだけ。昼と夜の境がない暗い部屋だけれど、お気に入りの空間だ。
静かに音楽を流しながら机に向かうと、心が落ち着き仕事に集中できる。
暗い部屋がリラックスできるというのは、母親の子宮の中にいた頃の記憶があるから、という説があるそうだが、確かにそうなのかもしれないと思う。皆が皆、共感してくださるとは思わないけれど、「暗い部屋が大好き」という人は相当数いるはずだ。
けれども住宅業界は「明るい部屋をつくるのが王道」と考えている人が圧倒的に多いように思う。
部屋はなるべく“南向き”にして、できることなら“二面採光”、“三面採光”とすることを望み、日当たりが良くない部屋は、クロスを白に、床を白もしくはナチュラルブラウンにして、少しでも明るく見せようと努力する。
今回ご紹介する部屋もその類で、部屋の南側と北側に窓があるが、半地下の1階なので日当たりが良いとは言えない。床や建具はブラウンで落ち着いた印象があるけれど、コンクリート打ちっぱなし以外の壁のクロスは白く、キッチンも横面は白で、明るく見せたいという意識が確かにのぞいていた。
ところで、この部屋は約32㎡のワンルームで、玄関から入ってすぐのスペースが約4.5畳大の土間になっている。それが人気で、半地下の1階ながらも、アウトドアを趣味とする方がテントを置いたり、イベント業を営んでいる人がイベントグッズを保管したりして借りてくださっていた。どちらも多少汚れたまま置いてもいいから楽というのが借りられた理由だった。
しかし新型コロナウイルスの感染拡大を受け、状況が一変した。
リモートワークが主流になり、アウトドア派の方は身近でアウトドアライフを楽しめるところを求め自然環境の豊かな場所へ引っ越して行かれた。イベント業の方もイベントそのものが大幅に減ってしまった。
そしてこの物件は川辺に建っているのだけれど、コロナ禍で建物と川の間にある遊歩道を散歩したりジョギングしたりする人が増え、半地下の窓から歩く人、走る人の足が見え、落ち着かない空間になってしまった。
リモートワークで部屋にいる時間が増えたことも災いし、前の方が退去されてから半年以上も空いてしまったのだ。
遊歩道は公道なので、通行止めにすることは不可能だから、人の足が気にならないようにするためには、ブラインドを閉めたままにするほかない。
でも遊歩道は南側にあるので、ブラインドを閉めるとますます日当たりの悪い部屋になってしまう。
さて、どうしたものか?と考えているうちに、自分は暗い部屋が好きなことを思い出した。
そうか、どうせ暗くなるなら、徹底的に暗い部屋にしてやろう! 自分と同じように「暗い部屋が好き」という人はきっと大勢いるはずだ。
そこでまず、部屋から「白」を徹底的になくしてみることにした。
部屋を部分的に紹介すると、玄関部分はシューズボックスと袖壁のクロス、玄関ドア、枕棚、エアコン、コンセント、照明器具が白い。これをひとつずつ黒またはダークブラウンにしていく。
白いシューズボックスと袖壁は撤去し、ガチャ柱を使ったダークブラウンのシューズ棚を設置。玄関扉にもダークブラウンのダイノックシートを貼った。
玄関を入った奥の壁に設置されていた白い枕棚も撤去し、場所を玄関脇に変え、壁のPコンフックを使ってダークブラウンの枕棚と飾り棚を取り付ける。
エアコンは黒く吹付け塗装し、コードも黒に変更。コンセントはシルバーに変えた。
ついでに給気口も黒く塗装。
スイッチプレートも白だったが、盤面がシルバー、スイッチ部分が黒い商品にする。
照明器具は白い丸形シーリングライトから黒いライティングレールに変更。設置したライトも黒くした。明度は落ちたが構わない。ここは暗い部屋なのだから。
どうしても明るくしたい方がいれば、設置する管球を自分で増やしていただけばよい。
火災警報器も黒いものに変える。黒い火災警報機があるということを初めて知った(笑)。
続いてキッチン。こちらはリノベーション前の姿。
まず白かったキッチンの横面に黒のダイノックシートを貼る。
キッチンパネル、シングルレバー水栓、手元灯も黒い商品へ変更。
IHクッキングヒーターも黒いものに変えたかったけれど、これは金額が高いので断念した。でも全体的に黒くすることに成功した。
最後は室内。
床はブラウンのフローリングだったが、黒い長尺シートを上張りする。
長尺シートにしたのは、せっかく土間があるので、そのまま土足で生活していただいても構わないと考えたから。もちろん靴を脱ぎたければ脱いでいただいてよい(笑)。
白かった壁のクロスはダークブラウンのレンガ調クロスに張り替えた。
またブラインドも重量感のある木製のものに変更。
照明器具も4連式の黒い商品に。
最後に黒いソファーベッドとダークブラウンのテーブル、テレビボードを備え付けた。
これにて暗い部屋へのリノベーションはめでたく完了した。
ちなみにこれらの写真を撮影したのは真夏の午後3時。天気は快晴だった。夜に撮影した写真だと勘違いしてくださった方がいたら本望だ。
さて成果はと言うと、リノベーション工事に着手する前に「暗い部屋にする」と募集図面に書き、イメージパースを掲載しただけで、1週間で3人の方が検討され、そのうちの1人が契約をしてくださった。
入居されることになったのはクリエイターで、検討くださった残りの2人は弁護士と公認会計士だった。
半年以上も空いてしまった部屋が「暗い部屋にリノベーションします」と宣言しただけでこの反響である。暗い部屋が好きという人はやっぱり多いのだ。
まだたった一部屋成功しただけなので、あまり偉そうなことも言えないけれど、もともと暗い部屋を明るく見せようとしても明るい部屋にはならない。「暗い」というのもその部屋が持っている才能のひとつと捉え、その“長所”を磨いてあげたらよいように思うのだが、どうだろうか?
文:久保田大介