僕はルームシェア物件をつくるのが好きだ。
人にそう言うと、「シェアハウスを運営しているんですか?」と訊かれることが多く、「いいえ、“シェアハウス”ではなく“ルームシェア”です」と答えるとキョトンとされる。
世間一般では“シェアハウス”と“ルームシェア”の区別があまり意識されていないのだ。
そこでキョトンとされている方には、“シェアハウス”と“ルームシェア”の違いを説明する。
「部屋数の多い戸建てやマンションで、家族ではない人たちが一緒に暮らすという点では同じですが、“シェアハウス”には運営事業者がいて、入居者は事業者が募集します。一方“ルームシェア”は友人同士や兄弟姉妹などが誰か一人契約者になって一緒に暮らします」
「“シェアハウス”は知らない者同士がひとつ屋根の下暮らしますが、“ルームシェア”は元々親しい人たちが一緒に暮らすのです」
そんなふうに説明を重ねていくと、「ああ、そういう意味なんですね~」と納得していただける。
そして僕 “シェアハウス”でなく、“ルームシェア”ができる賃貸住宅をプロデュースするのが好きなのである。
僕自身、高校時代に寮生活をしていたから、ルームシェアっぽい暮らしをしたことがあるけれど、本物のルームシェアはしたことがなく、ずっと憧れを抱いたままだ。
昔、好きだったドラマ『男たちによろしく』(出演:田村正和、古谷一行)や『29歳のクリスマス』(出演:山口智子、松下由樹、柳葉敏郎)で主人公たちがルームシェアをして暮らしていたが、その影響がかなり強いと自己分析している。
早くに結婚し所帯を持っているので、今は望むべくもないけれど、もし人生をもう一度やり直せるとしたら、若いうちは親友とルームシェアをして暮らしてみたい。あるいは老後、大好きな仲間たちと一緒に暮らしてみたい。
自分がそのように思っているから、同じ憧れを持つ人たちを応援したくなる。
そんなわけで、これまで「ルームシェア歓迎物件」をかなりの数つくってきた。
たいがいは2LDKや3LDKのマンションを「ルームシェア歓迎」と言って入居者募集しただけなのだが、反響はいつも非常に多い。
なぜかと言うと、ルームシェアを認める賃貸住宅があまりないからだと思う。そしてなぜ少ないかと言うと、ほとんどの大家さんや管理会社さんはルームシェアが嫌いだからなのではないだろうか。
以前、親しいオーナーさんたちに「なぜルームシェアを敬遠されるのですか?」と訊ね回ったことがあるのだが、「騒ぐ」「家賃滞納する」「すぐ解約する」と答えた方が多かった。
もし本当にこれが三拍子揃うのならば、嫌うのはもっともだ(僕は賃貸管理のテクニックを使えば揃わないと思っているから取り組めている)。だから友人同士で不動産屋さんに行き「ルームシェアできる部屋を探しているのですが・・・」と言うと、たぶんあまり紹介していただけない。不動産屋さんも「ルームシェア可物件」が少ないことを知っていて、労が多くて報われない仕事になると思う営業マンが多いためだと思われる。
こういう背景があるので、募集図面に大きな文字で「ルームシェア歓迎」と書いておくと、それだけで飛びついてこられるのだ。
そんな状況だから普通の物件でも十分人気があるのだけれど、過去にちょっと変わった「ルームシェア歓迎物件」もつくってみたことがある。
1階がスナックで、2階が商材を置くスペース兼休憩室になっていた戸建て物件をオーナーさんに購入していただき、「親友同士が好きなお酒をずらりと並べ、夜な夜な飲み語らいあって暮らせるルームシェア物件」にコンバージョンして募集をしてみたことがあるのだ。
この物件は商店街の外れ、住宅街の手前にあり、ここに来るまでに居酒屋やバー、スナックがいっぱいあるので、集客がかなり難しい。
ただ内装は、カウンターとお酒を並べる棚、大きく見栄えのいいL字型のソファーにチェアが備えられているので、スナックやバー経営に憧れている方が「すぐに開業できるから」と借りていかれる。
しかしやっぱり集客に苦戦して、短い期間で撤退される。それをまた“居抜き店舗”として募集され、次のチャレンジャーが賃借し、すぐに撤退する。
そんな物件で、僕がオーナーさんに購入いただいたときはやはりスナックとして借りられていたが、数ヶ月で退去された。
するとこの物件を売却仲介してくださった地元の不動産屋さんが、僕は依頼をしていないのに気を利かせてスナックとして次のお客様を募集し始めてくださった。
すぐそのことに気がついた僕は「ごめんなさい。今度はスナックでは貸さないことにしたんです」と言うと、不動産屋さんは不思議そうな顔をして「じゃあ、どうするの?」と訊ねてきた。
「ルームシェア歓迎の賃貸住宅にしようと思っているんです」と僕は答えたら、「そんな人、いるのかね~?」と笑われた。
僕は構わず、自分の意図通りに募集を開始したところ、すぐにルームシェア物件を探していた方が見に来てくれ、契約してくださった。
かつて同じ高校に通い、卒業後、地元(九州)からそれぞれ上京してきたという男性たちで、ひとりは親戚の家に、もうひとりはワンルームマンションでひとり暮らしをしていたが、「一緒に暮らそう」という話で盛り上がったタイミングでこの物件を発見し、見に来られたのだ。
その後、この物件は全国の新聞やウェブマガジンなどで何度か紹介され、僕も取材に同行し、ふたりの生活ぶりを見させてもらったことがあるのだが、本当に僕が思い描いた通りの暮らしをしておられた。
元スナックだった店舗が共用のリビング兼ダイニングキッチンになっていて、ここでお酒を飲みながら語らい、眠くなったら2階の自分の部屋にあがって寝る。時々共通の友人を招いてたこ焼きパーティーをして盛り上がる。そんな暮らしを愉しんでいると嬉しそうに語ってくれた。
「我が意を得たり!」と、話を聞いていて叫びたくなる思いだった。同時に、自分もこんな暮らしをしてみたかったとあらためて思った。
この企画はルームシェアという点だけでなく、店舗仕様のカウンターキッチンや応接セットが備えられているという点も大きなメリットだったと思う。
オーナーからすると、借主さんの入れ替わりが減り、火災保険も店舗用から住居用に切り替えられ保険料が安くなるなどの利点がある。
もし、親友とこんな生活をしてみたいと思ったら、商店街外れのスナックで空き募集をしている物件を探し、オーナーや管理会社と交渉してみるといいかもしれない。
しかし、ルームシェアの話を持ち出すと、敬遠されてしまう可能性が高いので、間に立って説得してくれる仲介業者さんがいた方が、借りられる可能性は高まるだろう。そういう仲介業者さんと出会うのがまた難しいことではあるのだけれど。。。
文:久保田大介
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