皆さん、こんにちは。コレクティブ研究家の久保有美です。
私はコレクティブな暮らし方=「つながり、ともに働く、フラットな関係」という暮らし方について日々考え活動しています。
今回は、私がコレクティブハウスで暮らすようになったきっかけから、普通の賃貸住宅での暮らしの違いを紹介していきます。
「なんと合理的な考え方で、素敵な暮らし方なのだろう!」
私は大学時代に福祉分野を専攻しており、その中の授業「居住学」でコレクティブハウスと出会いました。コレクティブハウスは北欧の中でも特に、スウェーデン・デンマーク・オランダを中心に広がっている暮らしです。フェミニズム(女性の社会進出)の流れから、血縁家族に固執せず、多世代での子育てや人との関係性を持ちながら、そしてそれぞれの個別制を大切にしながら暮らしていく、という仕組みにとても感銘を受けたのです。
女性の社会進出を考えるという事も別授業であり、当時は何となく将来に対して不安になっていました。
これから社会人になって一人暮らしをするかもしれないし、結婚して子どもを持つかもしれない。きっと共働きだろうし、そんな時に両親が必ず助けてくれるという保証はないよね、じゃぁどうやっていくのだろう、やっていけるのかな、と。よく言われる産後うつ、孤育て、絶対大丈夫と言えるような環境は果たしてあるのだろうか……?
その不安を解決する方法の一つが、このコレクティブハウスという暮らしではないかと思ったのです。そしてよく考えると私は幼少期にご近所さんたちとの関係がある暮らしをしていたことを思い出し、初めて知った北欧の暮らしと仕組みにさらに共感したのです。
私の原体験
私の両親は共働きで、祖母が家に家事育児を手伝いに来てくれていました。当時小学生だった私は、学校が終わって家に帰ると、家にいるはずの祖母は買い物に行っていたようで家に入れません。なのに私はどうしてもトイレに行きたかった! 焦った私は、斜め向かいのご近所のクリーニング屋のおじちゃんに「おばあちゃんいないの、トイレかしてほしい」と駆け込みました。生まれたときから知ってくれているクリーニング屋のおじちゃんとおばちゃんはもちろんすぐに家に上げてくれて、祖母が帰ってくるまでお店の奥で待たせてくれました。このエピソードは、私の中に強烈に残っています。
もともと京都では町内会というご近所コミュニティがしっかりとありました。当時は地蔵盆や学区運動会などは、町内会単位がベースでした。ですので、隣近所の人たちはよく知る間柄でした。お向かいのおばあちゃんはいつもこの時間は玄関前でひなたぼっこしている。隣のお兄ちゃんはサッカーを始めたらしい。5件隣のおじいちゃんは最近見かけない、など暮らしの中で人との関係ができる仕組みだったと思います。現在は、少子高齢化・個人情報保護だなんだかんだという中で町内会運営も隣近所の関係もなかなか難しくなっているかもしれません。
実際に暮らしてみる、関係性のある暮らし
10年前から東京に転職で上京したのも、コレクティブハウスでの暮らしをもっと身近にしたい、ゆくゆくは京都でコレクティブハウスをやるために、自分も暮らすこと、コレクティブハウスの仕組みや仕事にできるように学ぶことを目的としていました。
ただ、上京するにあたってNPO法人の運営しているコレクティブハウスは空きがなく、まずはシェアハウスに住むことにしました。シェアハウスで暮らしつつもコレクティブハウスで暮らすことは諦めず、やっと4年前に今暮らしているコレクティブハウスに引っ越しました。
引っ越したきっかけは、元夫との別居・離婚協議という状況でしたが、結婚生活を送ったからこそわかった、自分を大事にする(自分の意見を伝える)ことから、相手を大事にするコレクティブハウスの暮らしがとても心地よい、とそれまで以上に思えるようになったと思います。
そして、家族(夫婦)ふたりだけという関係性から、コレクティブハウスの多世帯かつ多世代の関わりがある暮らしにかわることで、二人だったときの息苦しさも寂しさもどこかにいってしまいました。きっと、単なるお一人様ではなく、人と関わる中で自分自身がどうしたいかということをより考え、いろいろな経験をもつコレクティブハウスの人たちとコミュニケーションをとっているからだと思います。
今の暮らしにナナメの関係性はある?
普通の賃貸マンションであれば、家族という世帯だけの関係性な中での暮らしにしかならないところを、コレクティブハウスでは子どもから高齢者までいる多世代の関係性があります。
たとえば子どもたちとの関係では、私の原体験を再現するかのようなこともあります。コレクティブハウスの子どもたちも鍵を持っていないこともあります。家にいるはずの親が、たまたまいないこともあります。そんなときは平日の昼間に自宅にいそうなお部屋の番号やコモンルームの番号を押してオートロックを開けてもらうことがあります。私も先日コモンルームで仕事をしていたら、コモンルームのインターホンがなり、出てみると「〇〇(子どもの名前)だよー、ただいまー!あけてー」と元気な返事がありました。子どもたちにとっては、私はよく知る近所の人で、コレクティブハウスに暮らす大人のことを子どもたちはよく知っています。子どもを持たない私は、コレクティブハウスでの暮らしのなかで、子どもたちにとっての“ナナメの関係”を作っている一員なのだと実感します。
ナナメの関係とは、親との縦の関係や、友達との横の関係とも違う、家の柱で言う筋交いのような、人間関係のことです。この関係性が人間関係の豊かさには欠かせないと強く主張されているのは教育革命実践家の藤原和博先生です。藤原和博先生は、元リクルートの新規事業部長から初のフェロー、その後東京都初の民間中学校長や奈良市一条高校校長を歴任されました。
“世代を超えた先輩・後輩との関係のことを、僕は「ナナメの関係」と呼んでいます。その地域に住んでいるおじさん、おばさんとの関係や、おじいちゃん、おばあちゃん、兄弟との関係などがそうです。”とおっしゃっています。
※引用先:DIAMOND ONLINE「子どものコミュニケーション力を伸ばす「ナナメの関係」とは?
私の原体験にはこのナナメの関係がありました。そして今もナナメの関係に囲まれています。大人になった今、子どもに限らず誰もが持つと豊かになる関係だと実感します。コレクティブハウスで暮らすことで、ナナメの関係が単身者の私にもできます。コレクティブハウスで暮らす人たちとの関係は会社のような縦関係でも、友人のような横関係でもありません。世代を超えた先輩たち、これからの未来をになう後輩たちがたくさんいるイメージです。
普通の賃貸では、私自身がとても頑張らないとこの関係をつくっていくことはできないと思います。しかしコレクティブハウスは、仕組みがあるので関係はつくられていきますし、そこでどのような関係を積み上げていくかは自分次第です。
もちろん、コレクティブハウスでないとナナメの関係性をつくることができない、ということは決してなく、どんな暮らしであってもナナメの関係をつくりだすことはできると思います。豊かな人間関係をもった暮らし方をより多くの人ができることを願っています。
文:久保有美