《 アトリエ賃貸推進プロジェクト 》Vol.004

画家・金丸悠児のアトリエ賃貸変遷史~アパート⇒古民家⇒共同アトリエ⇒トリプレットマンションを経て元コンビニ店舗へ。より良い制作環境を求めアトリエ五遷

投稿日:2021年6月29日 更新日:

金丸悠児さんのアトリエを訪問

アトリエ・工房がついた賃貸住宅=「アトリエ賃貸」を日本中に増やしていく「アトリエ賃貸推進プロジェクト」を担当している久保田大介です。
連載第4回目となる今回は、人気画家・金丸悠児さんのアトリエを訪問し、東京藝術大学入学から現在に至るまでのアトリエ変遷史をお聞きしてきました。
さまざまなタイプのアトリエがあること、それらのメリット・デメリットを知ることで、どのようなアトリエ賃貸をつくっていったらいいか、学んでいきたいと思います。

 

[金丸悠児(かなまる・ゆうじ)さんのプロフィール]
画家。アーティスト集団「C-DEPOT」代表。
1978年、神奈川県生まれ。幼児期にイランで2年間、小学3年から5年にかけてアメリカで3年間過ごす。
2003年、東京藝術大学大学院修了。大学院在学中に絵画、立体、映像、写真、メディアアートなどさまざまなジャンルを専門分野とする100名以上のアーティストが名を連ねる「C-DEPT」を設立。メンバーと一緒に企画展を行うほか、アートイベントのプロデュースを請け負う。
画家としての作品は動物をモチーフにしている。動物たちを見たままに描写するのではなく、自身のフィルターを通すことで動物特有のフォルムを抽出し、その内面性を描き出そうと試みている。
個展・グループ展を多数開催するほか、画集「金丸悠児作品集-時を運ぶ者たち」(2015年・マリアパプリケーション刊)、絵本「ホシノキオク」(2012年・ビーナイス刊)を刊行している。

元コンビニだった店舗スペースをコンバージョンしたアトリエ

久保田:はじめまして。「ワクワク賃貸」の編集長をしている久保田と申します。私たち不動産会社の人間がアトリエや工房がついた賃貸住宅を企画するとき、美術家の方たちがどのようなアトリエを望んでいるのかを知ることが欠かせないと考えています。今日は金丸さんから、これまで使ってきたアトリエの話をまとめて伺えると聞き、とても楽しみにしてまいりました。 まず、今のアトリエですが、ずいぶんと大きな空間ですね!

金丸:ここは元々コンビニだった店舗で、約125㎡あります。天井を抜いているし、ガランとしているから余計に広く見えるのだと思います。

久保田:制作中の絵も何点かありますが、ずいぶんと大きな作品もありますね。

金丸:今、描いているものの中では100号の絵を3つ並べた作品が一番大きいです。アトリエが狭いとどうしても作品がこじんまりとしたものになるので、良い制作環境を持つことはやはり大事ですね。

久保田:このアトリエはお一人で使っておられるのですか?

金丸:そうですね。専ら一人で使っていますが、C-DEPOTのメンバーと打合せをしたりワークショップをしたりする事務所スペースや、妻の美容室スペースもあるので、完全に一人というわけではありません。

久保田:奥様の美容室スペース???

金丸:はい。妻はフリーの美容師で、アトリエの一角に美容室スペースを設け、完全予約制でお客様に来ていただいています。

久保田:何と、何と! アトリエで髪を切ってもらえるなんて、贅沢ですね(笑)。
事務所スペースではワークショップをやっていると言われましたが、どんなことをされてるのですか?

金丸:コロナの影響で今はあまり開催できませんが、子どもたちを集めてワークショップをやったときは私の子どもたちも参加して、とても喜んでいました。

久保田:子ども対象のワークショップはどんなものだったのでしょう?

金丸:木炭デッサンや水彩などによる観察と描写の訓練や、コンクールに向けた絵画制作、工作のワークショップなどを行いました。工作ではダンボールやカッティングシートを使って、ミニハウスや剣&盾なんかを作りました。

久保田:そんなこともできるアトリエっていいですね! 
金丸さんのアトリエは床が土間になっていて、とても使いやすそうです。ほかに小さなキッチンやデスクスペースなどもありますが、これらはご自身でDIYをされたのですか?

金丸:全部自分でやるのは無理です(笑)。業者さんには土間へのクリア塗装、壁の造作、クロス貼り、シンク設置などをしていただきました。自分では壁へのペンキを塗ったり、棚柱を使ってデスクや棚を設置したり、トイレの床にクッションフロアを貼ったりしました。

久保田:全部ではないにしても、かなりのDIYですね。さすがです。この物件はどこまで手を加えることが許されているのですか?

金丸:店舗ですから、きちんとスケルトンにして戻せばいいのだと解釈しています。

久保田:倉庫スペースもかなりゆとりがありますね。

金丸:画材だけでなく、作品をストックしておくスペースは大事です。ここではC-DEPOTの仲間の作品も少し預かっています。

自宅兼アトリエにしたアパートから古民家へ

久保田:金丸さんのアトリエは本当に素敵すぎて、もっとたくさんお話を伺いたいところですが、今回は「アトリエ変遷史」がテーマなので、このへんでいったん止めます(笑)。
金丸さんが最初に借りたアトリエはどんなところでしたか?

金丸:1997年に東京藝術大学デザイン科に入学しましたが、はじめは取手にキャンバスがあったので、横浜市の実家を出て、千葉県・南柏で1Kのアパートを借りました。部屋は6畳でしたが、制作は専ら大学のアトリエで行っていましたから、ここでは小さな絵を少し描く程度。
翌年には上野キャンバスに移り、実家に戻ったので、短い間のことでした。

久保田:次に移ったアトリエは古民家だと伺いましたが、どんな経緯でそこで暮らすことになったのでしょうか?

金丸:横浜市の妙蓮寺に戦前に建てられた古い家があり、そこで母方の祖母がひとりで暮らしていました。それを心配した両親から「一緒に暮らしてあげてほしい」と頼まれたんです。
2階建ての木造家屋だったのですが、2階の半分を使って3室、離れにも2室の賃貸住宅がありました。入居者さんたちは家賃を大家である祖母のところに持参払いすることになっていて、これを受け取る役目もしてほしいと言われました。その半分を僕が小遣いとして受け取っていいというので、喜んで引っ越しました(笑)。

久保田:家賃がかからないだけでなく、お小遣いまでもらえるアトリエだったというわけですね(笑)。

金丸:祖母の家では1階にある20畳ほどの座敷をアトリエにさせてもらいました。畳が傷んでいて、かなり柔らかかったので、水平を取るのが難しかったけど、汚しても構わなかったから気楽に制作活動に打ち込めました。
庭に面した広縁はストックスペースにしていて、創作活動を行う空間としては贅沢だったと思います。

古民家をあとにして共同アトリエへ

久保田:おばあさまの家は広いし、お小遣いはもらえるし、最高だと思うのですが、なぜ引っ越されたのですか?

金丸:確かに居心地はよくて、祖母が他界したあとも数年はひとり暮らしをしたので、7年近くここで過ごしたことになります。でもシロアリが出たり、ハクビシンが天井裏で走り回っておしっこをしたりするようになったんです(苦笑)。
それで新しい制作環境を求めようと思っていたら、画家でグラフィックデザイナーでもある堤岳彦さんが運営していた共同アトリエ「ebc アトリエ」に誘われました。
「ebc アトリエ」は川崎市の小田急線「百合ヶ丘」駅にあり、すぐ近くに普通のアパートを借りてそこで暮らし、制作活動の拠点をこの共同アトリエに移すことにしました。

久保田:金丸さんは動物をモチーフにして作品を描いておられても、おしっこをするハクビシンは歓迎できませんね(苦笑)。ところで共同アトリエというのは、シェアオフィスのアトリエ版みたいなものですか?

金丸:簡単に言えばそんなものですね。「ebc アトリエ」は大家さんが住む賃貸併用住宅の地下1階にあった店舗部分を転用したものです。そこは元・小料理屋で、調理場とカウンター部分を共同アトリエのシェア仲間がカフェにして、お座敷部分を6~7人の共同アトリエ兼ギャラリーにしていました。

久保田:いやぁ、それは楽しそうですね!

金丸:和室だった座敷の上にはDIYでフローリングを敷き、汚れても大丈夫なようにしました。制作スペースとしては狭かったけれど、住まいと切り離したことでメリハリがつきましたし、仲間が創作している姿が刺激になりました。共同企画展(オープンアトリエ)やワークショップなども一緒に開催できたのも楽しかったです。

久保田:お話を伺う限りだと、静かな創作環境という感じではなさそうですが、その点は問題ないのですか?

金丸:創作中はお互いあまり話しかけないですし、利用する時間もさまざまだから、私は気になりませんでした。

久保田:気になる人はそもそも使おうと思わないですね。共同アトリエの使用料はいくらぐらいだったのですか?

金丸:ひとりあたり20,000円程度でした。それでも滞納してしまう人はいて、堤さんが穴埋めをして大家さんに家賃を払うこともありました。共同アトリエは運営者のリスクが大きいのが欠点ですね(苦笑)。

独立してアトリエ兼事務所を借りる

久保田:それが原因で金丸さんは共同アトリエから離れたのでしょうか?

金丸:いえ、そうじゃありません。「ebc アトリエ」にはカフェがあったと言いましたが、このカフェが繁盛するようになって、一方、アトリエ利用者が減ってきたことから、アトリエスペースも徐々に接客スペースになっていったんです。私自身も美術家としての収入が安定してきたので、2009年に豊島区・要町にアトリエ兼事務所を構えました。

久保田:そこはどんなアトリエだったのでしょうか?

金丸:賃貸マンションの一部が3層の事務所兼住宅になっている、全部で80㎡ぐらいの物件でした。地下1階に倉庫スペースがあり、1階が事務所、2階がワンルームの住宅になっていました。私は地下をストックヤードにし、1階はC-DEPOTのオフィス兼ギャラリーに、2階を自分のアトリエにして使いました。

久保田:とてもおもしろい物件ですね。これはどうやって探したのですか?

金丸:Yahoo不動産で探しました。地下1階の間取図が「スタジオ」と表記されていたので、目に止まったんです(笑)。

久保田:1階のオフィス兼ギャラリーではいろんなイベントをされたのでしょうね。

金丸:そうですね。ここでは展覧会や勉強会などをよく開催しましたが、2012年に「池袋モンパルナス回遊美術館」に参加し、それかきっかけとなって豊島区との関わりも深くなりました。

久保田:2階のアトリエはどんなものでしたか?

金丸:2階はキッチンや三点ユニットバスなどがある普通の住宅です。床はフローリングになっていて、汚してはいけないと思って、タイルカーペットを貼ったりして、気を遣いながら使用していました。

アトリエと住まいは切り離したほうがいい?

久保田:アトリエとしてはちょっと不自由でしたね。

金丸:2017年に練馬区内に中古戸建てを購入し、そこをリノベーションして暮らし始めたのですが、要町は少し遠かったし、手狭になっていたので、自宅近くにアトリエを探し始めました。探しているうちに親しくなった仲介業者さんから紹介されたのが、今のアトリエで、まさに一目惚れ。家賃は要町の倍近くで予算オーバーだったのですが、駐車場もついているし、ほかに借りていた倉庫も解約すれば何とかおさまりそうだったので、思い切って借りました。

久保田:そうして今に至るわけですね(笑)。金丸さんのアトリエ変遷史、とても面白かったです。
しかし、ひとつ疑問に思ったのですが、ご自宅を購入されるとき、そこにアトリエスペースを設けることは考えなかったのですか?

金丸:全く考えなかったわけではないですが、アトリエや倉庫スペースまである自宅を都内で購入するとなると、かなり金額が高くなりますからね(苦笑)。
それと、家族と暮らす場所と仕事場を一緒にすると、僕自身は切り替えが難しいということもあるんです。

久保田:なるほど~。私が企画しているアトリエ賃貸は、アトリエや工房がついている賃貸住宅なのですが、アトリエと住まいを切り離したいという方も多いというわけですね。

金丸:アトリエと住まいが一緒でも大丈夫という人も大勢いるので、そういう方たちにとっては久保田さんの企画しているアトリエ賃貸はいいと思いますよ。それと独身者と家族持ちとはちょっと違うと思います。

夢のアトリエ賃貸

久保田:すみません。金丸さんのお話が楽しくて、すっかり長くなってしまいました。
最後に、金丸さんの「夢のアトリエ賃貸」がありましたら、聞かせていただけますか?

金丸:ビルを1棟丸ごと買って、アトリエ賃貸ビルにしたいです。自分のアトリエやギャラリーのほか、共同アトリエもつくり、アトリエ探しに悩んでいる美術家たちに提供したい。かなりお金がかかるので本当に夢みたいな話だけど、実現できたらいいですね(笑)。

久保田:金丸さんは早くからC-DEPOTを設立し、たくさんの美術家仲間と一緒に活動をされてきましたが、そんな金丸さんにふさわしい、素敵な夢だと思います。いつかきっと実現させてほしいです。今日はどうもありがとうございました。

文:久保田大介

  • この記事を書いた人
アバター

久保田 大介

『ワクワク賃貸®』編集長。有限会社PM工房社・代表取締役。 個性的なコンセプトを持った賃貸物件の新築やリノベーションのコンサルティングを柱に事業を展開している。 2018年1月より本ウェブマガジンの発行を開始。 夢はオーナーさん、入居者さん、管理会社のスタッフさんたちがしあわせな気持ちで関わっていけるコンセプト賃貸を日本中にたくさん誕生させていくこと。

-アトリエ賃貸推進プロジェクト

© 2024 ワクワク賃貸®︎