DIYのセンスと技術を学べるところがある
皆様こんにちは! 「DIY賃貸推進プロジェクト」特派員の伊部尚子と申します。
賃貸住宅の管理会社に長年勤務しており、住まい手がDIYできる賃貸住宅を増やす取り組みをしています。
賃貸住宅でもDIYを原状回復不要にしてもらいたい・・・と考える方は多いと思いますが、大家さんの気持ちになって考えてみると、そこにはDIYする側にも「センスと技術」が必要です。賃貸住宅の一般的なリフォームは、入居者が入れ替わることを想定し、大家さんや管理会社が「万人受けする無難なセンスのものを」「プロの職人さんに依頼して」実施することが多いです。でも、ずっとそれではつまらないですよね。
私たち管理会社も頑張ってDIY可能な賃貸物件を増やすので、入居する皆さんも少しずつセンスと技術を磨いて欲しいと思っています。
大家さんや不動産屋さん向けに開催されている、内装の学校がある
「センスと技術なんてどこで学べばいいの?」と思った方にピッタリの学校があります。
大人気の空間デザイナー、夏水組の坂田夏水さんが開催する「夏水組の内装の学校」です!
「夏水組の内装の学校」は、大家さんや不動産屋さん向けに開催されていますが、ご自宅をDIYしたいという一般の方の参加も増えています。
内装コーディネートの基礎知識などを学ぶ座学コースと、DIYの技術などを教わる実践コースがあるのですが、時代に合わせて2021春期コースは座学コースがオンライン開催となりました。
座学では、坂田夏水さんからマーケティングの基本を習い、各自が自分の持ち込み物件について、プレイス(立地)・プロダクト(建築)・プライス(賃料やかける工事費)・プロモーション(広告)の4つの「P」の観点からコンセプトや入居者のペルソナを設定し、内装コーディネートシートまで完成させます。実は私も、不動産管理会社の立場から座学コースの一部の講師を担当させていただいており、私自身も夏水さんや受講者の皆さんに毎回大きな学びをいただいています。
今回は、坂田夏水さんに教わる実践コースについて皆さんにご紹介したく、潜入取材に行ってきました。場所は、夏水組がプロデュースしたお部屋もある西荻北ホープハウス。DIY可能、原状回復不要な賃貸マンションです。
西荻北ホープハウスの管理会社のリベストさんは武蔵野・杉並エリア密着の老舗の不動産屋さんです。そして、吉祥寺といえば、坂田夏水さんのお店「Decor Interior Tokyo」があります。リベストさんと夏水組さんが協力して、吉祥寺エリアの賃貸住宅を素敵にしているというわけなのです。
「内装の学校2021春 実践編」の会場は2階のお部屋でした。
今回DIYするお部屋は、コンセプトが「インテリア・ものづくり、料理などを楽しむクリエイティブな二人暮らし」で、ここに住まう人のペルソナは「西荻窪に住む20代の若いカップルや若い夫婦、美容関係やアパレル関係の仕事に従事、インテリア・洋服・食器などが好きなおしゃれでクリエイティビティあふれる二人」という設定です。 坂田夏水さんがそのコンセプトやペルソナに合わせて、内装コーディネートシートを作成。それに沿って、実際にDIYをしていきます。
内装コーディネートシートの間取図に色のついているところが、今回DIYを行う場所です。ペンキ塗り、フロアタイル貼り、輸入壁紙貼り、クッションフロア貼りに混じって、ほかではなかなか体験できない襖紙を壁に貼るDIYまでメニューに入っています。これは楽しみです!
さっそくDIY開始!
最初は壁のペンキ塗りから開始します。ペンキは一度塗りしてから乾かし、二度塗りしなければならず、時間がかかるからです。ペンキを塗る前にマスキングテープで養生をしていきます。
坂田夏水さんがまずはペンキ塗りの見本を見せてくれます。LDKの壁に塗るペンキは夏水組ウォールペイントの「アンジェリーナ」。パリの老舗モンブランケーキの色だそう。
ちなみにアンジェリーナを塗っているLDKの壁に設置されている合板は、突っ張り棒の老舗、平安伸銅工業さんのLABRICO(ラブリコ)で作ったふかし壁です。ラブリコは2×4木材を床と天井に突っ張り、DIYの基礎となる支柱を立てる便利なDIYパーツです。壁に傷をつけることなく、棚や間仕切りを作れます。このふかし壁がどんなふうになるのかは、後からのお楽しみ~。
説明を聞いたら全員でペンキ塗り開始です。洋室の間仕切り壁のペンキは、夏水組ウォールペイントの「ノアール」。シックなフランスの黒です。
玄関側の壁のペンキは「ムタルド」。アクセントカラーとなるからし色です。
浴室とトイレの手前に新たに作った壁の合板の継ぎ目にパテ打ちし、平らにしていきます。ここには輸入壁紙を貼る予定ですが、下地になる壁に凹凸があるときれいに貼れないからです。
一度塗りが乾いたら、二度塗りしていきます。壁紙の凹みの部分がよく見ると白く残っていることがよくあるので、そこをつぶすように丁寧に塗っていきます。
ペンキの詳しい塗り方については、Vol.006、Vol.007の過去記事も参考にしてくださいね。
壁紙の代わりに、襖紙を壁に貼るアイデア
坂田夏水さんはお祖父さんが表具師さんで、子どもの頃から日本の伝統柄に触れていたのだそうです。その育った環境からも「日本の伝統技術をしっかり守りたい」という強い思いがあり、代々続く和紙職人さんたちにお願いして夏水組オリジナルの襖紙を作っています。パリで開催されるインテリアとデザインの関連見本市「メゾン・エ・オブジェ」でも大好評だったそうです。
今回はなんと、それを壁に貼るとのこと! 私は個人的にこのDIY施工を見学することを、この潜入取材で一番楽しみにしていました。
今回洋室の壁に使うのは、「毘沙門亀甲 本花色」です。亀甲模様に、仏様の守り神・毘沙門天の組み合わせという大変縁起の良い柄です。
襖紙に糊をなじませるため、オープンタイムを少し取り、壁に貼っていきます。
一番端まで貼れたら余りをカットします。濡れた襖紙はカッターでスパッと切りにくいのですが、カッターの刃をマメに折って都度新しい刃を使うこと、刃の角度をなるべく寝かせることがコツだそうです。もともと和紙でできているので、失敗して破れたりちぎれたりしても、貼り付ければ目立ちません。修正がしやすいのも魅力ですね。
襖紙の重ね張りだけでなく、合わせ切りも体験
後ろを向けば、今度は例の、LDKのふかし壁にも襖紙が貼られていました。こちらも夏水組オリジナルの襖紙「菊七宝・鼠」。延命長寿の意味のある菊と、縁起の良い七宝が組み合わされた文様です。
ふかし壁の合板に巻き込むように1枚目の襖紙を貼っているので、横幅が少し足りず、右端に2枚目が必要でした。先程の洋室の壁では、襖紙の端をちぎって重ね張りしましが、ここでは2枚目の柄を合わせ、1枚目の上から被せて貼り、繋ぎ目になるところを2枚重ねて一気にカットする合わせ切りの手法で施工します。
カットした部分から余分をペローンと剥がすと、1枚目と2枚目の襖紙の切れ目がぴったりと合わさります。きれいに柄合わせができていました。 重ね張りと合わせ切りの違いを夏水さんに尋ねてみました。
「襖紙は和紙で出来ているので、乾くと縮みます。これは、紙製の輸入壁紙も同じです。乾いたときに隙間が開かないようにしなければなりませんが、襖紙は和紙の特徴を生かしてちぎって重ねて貼ることが可能です。でも壁紙みたいにピッタリ合わせて貼りたいという方もいらっしゃるので、その場合はこのように和紙テープを使います」
和紙テープという剥がれ止めのテープを、襖紙の繋ぎ目をめくって裏側に貼り込みました。こうすると継ぎ目が開きにくくなるそうです。
玄関の床にフロアタイル貼り
襖紙貼りチームと並行して、玄関ではフロアタイル貼りが進行していました。フロアタイルは塩化ビニル製の床材で、固いのでカッターで切るのが少し大変ですが、傷つきにくく丈夫なので、玄関などの狭い部分に挑戦してみるのはとても良いと思います。
輸入壁紙貼りや、クッションフロア貼りも
お風呂とトイレの入り口を隠して脱衣所を作った合板の壁には、ゴッホが描いた絵画をモチーフにしたシリーズ「 VAN GOGH MUSEUM 」のイエローの輸入壁紙が選ばれていました。からし色のムタルドのペンキと共に、ブラウンとネイビー中心のお部屋のアクセントカラーになっています。このセンスがさすが夏水さんですね。
輸入壁紙の詳しい貼り方は、過去記事Vol.005も参照くださいね。
洋室の押し入れの下には、クッションフロアを貼っていきます。古い物件の押し入れの内部は、落ちない傷や汚れがあるときは、クッションフロアを貼ってカバーすると良いですね。
今回は原状回復可能な貼り方として、両面テープで貼る方法を習いました。
一部屋まるごとのDIYが完成した後は、家具セッティングと写真撮影の講義が行われました。一日でなんと盛り沢山なプログラムでしょう!
さて、どんなお部屋が出来上がったのか、順番に見ていきましょう~。
最初はLDK。
次は、LDKの反対側。
そして、洋室。
LDKのふかし壁の穴は、照明器具のコードが通る穴でした。ふかし壁に照明器具がビス留めされていますが、コンセントはふかし壁の下を通って壁のコンセントに繋がっています。ふかし壁が素敵なだけでなく、コードを目立たせないで照明まで設置できるという素敵なアイデアですね。
古い建物の和室を洋間にした部屋におすすめしたい、伝統柄の襖紙
今回の潜入取材で一番印象に残ったのは、和の伝統柄の襖紙の魅力。古い物件はもともと和室であることが多いので、工事で洋室に変更しても、鴨居や長押や天井の廻り縁が残ってしまい、どうしても”元和室感”が残ってしまいます。
しかし、壁紙の代わりに伝統和柄の襖紙を貼ることで、和と洋の雰囲気を違和感なく繋ぎ、レトロモダンな和洋折衷空間に変わるのです。これぞ、夏水マジック!
夏水組オリジナルの襖紙に興味を持った方は、これまでのストーリーや施工事例も是非読んでみてくださいね。
最後に、今回DIYしたお部屋の玄関ドアを開けたところのビフォー・アフター写真をお見せしましょう。
【ビフォー】
【アフター】
こんなに素敵なDIYをしてくれたら、大家さんだって管理会社だって、「原状回復して」とは言わないと思います。
とは言え自分のセンスに自信のない人は、「Decor Interior Tokyo」に実際に行って、お店のスタッフに相談しながらDIYの材料を選んだり、遠方の方はオンライン来店を利用したりしてみてください。
実際に内装の学校で受講してみたい方は、開催を夏水組のホームページでチェックしてくださいね。今回の受講者さんのように、入居者さんのDIYに寛容な大家さんたちとも出会えますよ。座学では私もお待ちしています!
文:伊部尚子