《 菓子工房賃貸推進プロジェクト 》Vol.011

菓子工房づくりと“不動産業者の壁”

投稿日:2023年4月17日 更新日:

なぜ不動産業者は協力してくれないのだろう?

今、とても大きな家に住んでいて、「部屋が余っているから下宿人を募ろう」と考えたとします。さっそく不動産業者さんに頼んで入居者を募集してもらったら、すぐに飛びついてきた方がおられたのだけれど、その人は「DIYで自分の好きなように部屋を改装したい」と言い出しました。さて、皆さんならどうされますか?

入居希望者さんがよく知っている人なら検討の余地はあるけれど、まったくの初対面。氏素性もよく知らないし、性格もわからない。そもそもどんなふうに改装されるのか見当もつかない。
そんな状態であれば“君子危うきに近寄らず”で、とりあえずお断りする方が多いのではないでしょうか?
あるいは「入居者さんが信頼できる方かどうかということ、おやりになりたいDIYの内容な何かということをよく確認し、あなたが大丈夫だと思うならお受けします」などと言って、不動産業者に判断を委ねるかもしれません。
今度はもし皆さんが、大家さんに判断を一任された不動産業者だったとしたらどうでしょう?
責任が重たすぎるから、慎重に構え、少しでも不安要素があるようなら、回避しようと思いませんか?

「菓子工房賃貸推進プロジェクト」では、菓子工房づくりには「基本的な知識の壁」、「不動産屋の壁」、「工事業者の壁」、「保健所の壁」という4つの壁があるとお伝えし、Vol.008では「工事業者の壁」について、Vol.010では「保健所の壁」について、私の考えをご説明しましたが、今回は「不動産業者の壁」について、お話したいと思います。
私は不動産業が本業なので、不動産業者の気持ちや考えていることはよくわかります。ですので今回はかなり“不動産業者の本音”をぶっちゃけたいと思います。
ちなみにトップ画像は「菓子工房をつくりたい」と相談されたときの不動産業者の心の叫びを表現したものです(笑)。「ああ、困ったお客さんが現れた。どうしよう?!」と受け止める業者さんがほとんどだろうなあ、と思っているというのが、まず最初の私の“本音”です。

不動産業者の事情や心理を知るところから始める

「敵を知り、己を知れば、百戦して殆(あや)うからず」という言葉を聞いたことがあるかと思います。
これは孫子の言葉で、「敵と味方の事情や心理を熟知していれば、100回戦ってもリスクはない。しかし敵・味方の事情や心理を知らずに戦いを挑めば、必ず危ない場面が訪れる」というような意味です。

菓子工房をつくりたい方は、ご自身の事情や心理はよくわかっておられると思いますが、不動産業者や大家さんが、どういう業界で仕事をしていて、何を思っているか、考えたことがある方は少ない気がします。
“敵”のことをよく調べないで戦いに挑む=物件探しに出かけると、100回訪ねても徒労に終わる可能性は高いです。
この場合、悪いのは、菓子工房をつくりたい方のことを知ろうとしてくれない不動産業者や大家さんの側でしょうか? もしそう思われるのなら、たぶんこの先もかなりの幸運に恵まれない限り、良い不動産業者には出会えないし、良い物件も見つからないと、孫子は言っているように思います。
まず不動産業者の事情や心理を知るところから始めてみませんか?

不動産業者の事情

不動産業者の事情を知る手がかりとして、はじめに“不動産業者のタイプ”について簡単にご説明いたしましょう。
不動産業には主に売買・賃貸・開発があって、街の不動産屋は売買・賃貸の仲介業者がほとんどです。そこから売買がメインの業者、賃貸がメインの業者、両方手掛ける業者に分かれます。
賃貸仲介を行う業者も、住宅をメインにする業者、店舗・オフィスをメインにする業者、両方行う業者がいます。
では菓子工房にできる物件を探しに行くとき、どのタイプの不動産業者を訪ねればいいでしょうか?

不動産業者で一番数が多いのは「賃貸住宅の仲介をメインにする業者」ですが、おそらくそこを訪ねてもなかなか取り合ってもらえないと思います。なぜなら住宅以外のことはあまりよくわからないからです。特にテレビコマーシャルをやっているような賃貸の不動産会社はほとんどが住宅メインなので、そういう会社に行ってもおそらく無理です。住宅だけで十分商売が成り立っていけるし、たくさんの仲介件数をこなさなければならないから、手間のかかることにはなかなか取り組んでいただけません。

次に店舗・オフィスをメインに仲介している不動産会社ですが、「店舗もやりたい」と希望されるのならいいかもしれませんが、おそらく立地の良い物件ばかりを取り扱っておられるから、予算(賃料)が合わないことが多いです。

私は、商売立地に恵まれない店舗物件や、菓子工房にすることを許可してくれる住宅を探すのなら、住宅も店舗も両方取り扱っている不動産会社がよいように思います。
両方取り扱っているかどうかは、会社のホームページを見ればわかります。ホームページに店舗情報も住宅情報も掲載している会社が両方扱っている会社です。

不動産業者の心理

ところが、住宅も店舗も扱う不動産業者に行っても、残念ながら常に歓迎されるわけではありません。
その理由を簡単にご説明します。
まずその不動産業者さんの方で入居者募集をしている物件が、自社で管理している物件の場合と、他社管理物件の場合とがあります。
自社物件ならば、日頃のお付き合いを通じて、菓子工房とすることを大家さんが理解してくれるかどうか想像がつきますが、他社物件の場合はわかりません。
そして物件が商業立地に恵まれない店舗ですと、菓子工房が歓迎される可能性があるけれど、住宅を菓子工房に転用しようというときは、不動産業者側にも経験がないことが多く、二の足を踏みます。
「経験がないのなら一から勉強すればよい」と思うかもしれませんが、ただの勉強では足りないので、それを求めるのもなかなか酷というもの。なぜなら不動産業者は大家さんを説得しなければならないからです。物件が他社管理なら管理会社も説得しなければなりません。どんな分野でもそうですが、人を説得するほどの知識を持つというのは大変なことです。

また報酬のこともネックになります。
皆さんの多くは家賃の安いところを探していると思いますが、仲介手数料は家賃の1ヵ月分と宅建業法で定められていますから、「家賃の安いところ=仲介手数料の安いところ」という構図になります。普通の物件の何倍も手間がかかるのに仲介手数料が安いとなったら、あまりやる気にならないのは当然ではないでしょうか?
それでも頑張ってみようと思ってくださる不動産業者との出会いは本当に貴重なものだと思います。

不動産業者を味方にするには?

大家さんがご自身で入居者募集をすることは稀で、ほとんどの物件の場合、不動産業者にお客様付けを依頼されますから、菓子工房をつくりたい方が大家さんと直接出会える機会はとても少ないです。
ということは、不動産業者が動いてくれなければ、大家さんに「菓子工房にさせてほしい」という願いが届くことがないということなので、不動産業者は皆さんにとって、まさに“壁”となっています。
それではどのようにしたらその大きな“不動産業者の壁”を乗り越えることができるでしょうか?
これにはいくつか方法があるかと思いますが、皆さんに是非やっていただきたいのは、大家さんを説得する資料をつくって不動産業者に渡すという方法です。
大家さんがご所有の物件を菓子工房にしても大丈夫かどうか、検討するポイントはいくつもあります。
ざっと列記しますと、
◎そもそも菓子工房にすることが用途地域的に許されているかどうか?
◎菓子工房にすると家賃に消費税がかからないか?
◎菓子工房にすると、固定資産税や火災保険料が上がってしまわないか?
◎菓子をつくるとき、臭いや音の問題は大丈夫か?
◎改装工事は許可できる内容か?
◎将来退去される際、原状回復工事はきちんとしてもらえるか?
など、いくらでもあります。
大家さんが抱えている、これらひとつひとつの疑問や不安点を不動産業者は解決してさしあげないと、大家さんは承諾してくださらないのですが、その不動産業者自身がよく知らないこと、調べなければならないことがいくらもあります。
これらについて、「これさえ読んでいただけたら、全部解決できることがわかります」と言えるだけの資料をつくり、不動産業者に手渡すのです。
不動産業者も大家さんに説明する前に、基本知識が必要となりますが、手渡された資料を手がかりに調べれば、簡単に学べるようになります。

もうひとつ、これは私自身がとても大事だと思う点なのですが、不動産業者に対し、自分がお客様だと思わないようにしたほうがよいと思います。
仲介手数料を支払うわけですから、お客様には違いないのですけれど、前述の通り、不動産業者が担う手間に対して、仲介手数料はあまり見合うものではありません。宅地建物取引業法があるので、「もっとたくさん報酬を支払うから、積極的に協力してほしい」と願っても、そういうわけにはいきません。
金銭的な魅力がないのであればどうしたらよいか、一生懸命考え、工夫する必要があると思います。
その第一歩として、お客様として処遇してもらいたいという気持ちは捨てたほうがいいです。
そして自分自身を信頼してもらえるよう、心を尽くしていただきたいです。
「ほかの不動産業者にも相談しているのだけれど・・・」などと言ったら、おそらく話はそこでおしまいで、「ああ、よかった。自分以外の業者に行ってくださっているのなら、自分は適当にお茶を濁しておけばいい」と思う不動産業者が多いはずです。
いずれにしましても、「自分が不動産業者だったら?」と考えることから始めていただきたいです。それが“不動産業者の壁”を突き破る第一歩となるかと思います。

文:久保田大介

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久保田 大介

『ワクワク賃貸®』編集長。有限会社PM工房社・代表取締役。 個性的なコンセプトを持った賃貸物件の新築やリノベーションのコンサルティングを柱に事業を展開している。 2018年1月より本ウェブマガジンの発行を開始。 夢はオーナーさん、入居者さん、管理会社のスタッフさんたちがしあわせな気持ちで関わっていけるコンセプト賃貸を日本中にたくさん誕生させていくこと。

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